『空からきた魚』  アーサー・ビナード

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集英社文庫版。心斎橋のブで105円で買う。アーサー・ビナードは名前だけ聞いたことがあって、まだ読んだことがなかったのでうれしい。表紙の写真もたいそう好み。陶片に描かれたトビウオの絵。アテネ国立考古博物館蔵と書いてあるから、ギリシャのやきものだろうか。
中身の文章も、もちろんよかった。思考がきびきびとしていて、その結果としての、弾むような文章。

虫の話がたくさん出てくる。それも、蝶とかクワガタとかそういう王道っぽいいきものではなくて、鈴虫やらザザ虫やらカナブンやら、身近すぎるような虫がいろいろ。中でもいちばん印象に残ったのは、ダンゴムシをベランダから抛る話だった。
舞台は作者が住む11階建てのマンションのベランダである。高いところだが、ベランダ園芸をしたり、隣が植木好きの大家さんだったりで、思ったよりたくさんダンゴムシが出るのだという。室内にも入ってくるのだが、虫好きな作者は殺したりしない。入られても入られても、隣の大家さんの植え込みに投げ返す。以下引用。

《毎日そんなことを繰り返していたが、いつしか考えた。ひょっとしたらこれは、植え込みが満員で、しかたなく新居を探しにわが家にきているのかも。下界なら新居が見つかるだろうに……。そこでぼくは、植え込み目がけての一投をやめ、ベランダから下へ放ることにした。直下の「下界」といえばマンションの駐車場だが、周りに草木があり、ダンゴムシはきっとそれを見つける……。
ところが、侵入者が特別多かったある週末、妻からクレームがついた――「転落死させるなんてひどい」。
「死にやしないよ」。ぼくは反論したが、いささか不安になって、次に落としたときに見届けようとした。小さすぎて、着地前に見失ってしまう。そこで実験を行うことにした。
まず、団子虫を八匹捕まえて容器に入れ、妻に託す。それからぼくは地上へ降り、駐車場に立って合図。見下していた妻が一匹を持ち上げて、落とす。だがその一匹はどうやら、途中の何階かのエアコン室外機の上に乗り上げたらしい。二匹目は、投球に少し力を入れてもらい、駐車場のど真ん中へ。その飛行の様子は、十四本の足と二本の触覚を思いっきり伸ばし、鎧を落下傘みたいに広げている。そして着地の寸前、ぎりぎりのところでキュッと体を丸め、アスファルトの上にコロッと転がった。止まると、何事もなかったように這い回り始めた。
(中略)
四匹の虫を片手に、エレベーターで戻ると、「怖い思いをさせちゃって、かわいそうに」と妻。「怖いのかな……」。ぼくの想像では逆に、空を飛ぶスリルを団子虫たちは楽しんでいたのだが。》(p63-64「団子虫の落下傘」より)

引用終わり。読みながら、「うわー、この実験わたしもやってみたい!」と思った。せやけど目ェ悪いから、ダンゴムシの足まで、うまいこと見えるかどうか。
by konohana-bunko | 2008-12-28 21:37 | 読書雑感 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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