ブーツを脱いで正座

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19日(土)朝の葛城山。

某日、朝十時過ぎの電車に乗った。車内はよく空いている。向かいの席に二十歳くらいの娘さん二人連れが座っている。楽しそうにしゃべっている。
そのうち、右の娘さんが
「足、熱(あつ)ない?」と言い出した。
電車の座席の下にはヒーターがあり、温風が出ている。温風はふくらはぎの位置に当たる。
厚手のタイツにスニーカーの左の娘さんは「うん、熱いっちゃ熱いけど、ちょうどいい」と返事している。右の娘さんはロングブーツだから、よけい熱く感じたのだろうか。あるいは、ちょうど足の下が温風の吹き出し口になっていたのかもしれない。
「熱いから、ブーツ脱いでもいい?」と右子さん。
「え?え?ええけど」とお友達。
右子さんは片方のブーツのファスナーを開けて、タイツをはいた足をつるっと抜いた。抜いた足の先は、素早く膝を折って、ミニスカートの腿の下に隠す。反対の足も、同じことを繰り返し、上体を屈めて、ブーツがだらしなく倒れないように揃えて整える。それから、バッグからさっとチェック柄のストールを取り出して広げ、膝をきっちりと巻き込んだ。つまり、座席の上にお行儀よく正座したのである。
そうして二人、また何事もなかったかのように、おしゃべりを続けていた。
by konohana-bunko | 2009-12-22 20:30 | 日乗

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり