『現代短歌の新しい風』  ながらみ書房

『現代短歌の新しい風』(ながらみ書房 田島邦彦編著代表 1995)より、好きな歌を、こころの向くままに。
以下引用。
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シャガールのカンヴァスに棲みほのぼのと目をひらく鶏、手のある魚  小田部雅子 『春の音叉』

きりきりと縄を巻きつけ手渡さる 紫色の父の大独楽  安藤美保 『水の粒子』

ずいずいと悲しみ来れば一匹のとんぼのように本屋に入る


くるしみの美しかりし橋過ぎて老いたる雨は金融街へ 鳴海宥 『BARCAROLLE』

雲雀料理の後にはどうぞ空の青映しだしたる水を一杯  尾崎まゆみ 『微熱海域』
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どんなにか遙かな場所から僕にくる風の吹く日にベランダにいる  早坂類 『風の吹く日にベランダにいる』

春ものの衣類をたたむわたくしの頭上はるかを母がまたいだ

人と見る夢ならばまず届かない夢だと思え 花は一輪

死後に来る春にほのかに咲いているしずかななずなしずかななずな


幸運は天よりおとづれむものを雨の日はみな傘さして行く  西田政史 『ストロベリー・カレンダー』

さす傘に子を引き入れて叱るとき地上に母と子のみとなりぬ  中川佐和子 『海に向く椅子』

湯の中でしかればにわかにわれの子は垂れいる部分を握りて泣けり

あかつきの夢にきらめくばかりなる古瀬戸の壺のへら描きの鳥
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大型ゴミのタンス抱えて夜の道をきみと何だか楽しく歩む  中津昌子 『風を残せり』

絵巻物右から左へ見てゆけばあるとき烏帽子の人らが泣けり

鳴雪という人よくは知らねども子規は卵と渾名をつけし

ぜったいに人に言わない約束ののちにとろりとはじまるはなし

ママが嫌う私をわたしも嫌ってる公園通りルナカルナバル  蝦名泰洋 『イーハトーブ喪失』

人から人へ嘘がわれらを汚しても火は汚されぬガールズブラボオ


ゴヤの首の行方いまだに不明なる事聞きてよりのち夢に見る首  森本平 『橋を渡る』

サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい  大滝和子 『銀河を産んだように』

父の文字の細きを封書に眺めおり真冬の四天王寺どやどや  梅内美華子 『横断歩道』(ゼブラ・ゾーン)

かおりもて鉄路の奥より夜きたる青信号は馬の目の色

by konohana-bunko | 2010-02-10 14:01 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり