ゴミ箱の中に入って

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母の面会に行った。
母の体調は日によって違う。前回は「これから府中(郷里)に帰ります。お世話になりました」と裸足で騒いでいた。しかし今日は比較的落ち着いた様子だった。
病棟の看護師さんが
「Oさん、ほら、*子さん――わたしのこと――、泣いてないやん」と母に話しかけてくれている。何のことかと思ったら、母がしきりと「*子が泣いてる」と訴えていたらしい。
「うちが泣いとったん?」と母に尋ねると、母は非常に遺憾であるといった表情で説明を始めた。
「泣いてた。ゴミ箱の、中に入って。あんなところに。入って。泣いて。――こんな娘に。育てた。親が悪い。」
「悪くないよ」
「こんな娘に。育てた。覚えはない。泣くんだったら、家で。泣けば、いいのに。ゴミ箱の、中に、入って。」
みっともないったらありゃしない、と言いたげな顔で、何度も繰り返す。
言うまでもないが、本当にわたしがゴミ箱に入っていたわけではない。母には時々、幻覚のようなものが顕れるのである。いろいろあり得ないことを訴える母なのだが、こういう罪のない話はめずらしいと思った。
by konohana-bunko | 2010-03-14 21:22 | 日乗 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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