丘の上の木

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若い娘が丘の上で一本の木を見つけた。冬のことだった。木には一枚の葉もなかった。だが、枝ぶりもよく、木肌に艶があった。春になれば芽吹くだろう。娘は木の根元の雪を掻きのけ、土を寄せてやった。
春になった。野の花は咲き、麦の穂が風に揺れた。娘の木には何も起こらなかった。ゆっくり目覚める木なのだろう。娘は下草を刈り、灰を撒いてやった。
夏になり、秋が来た。木には変わりがなかった。よほど弱っているのだろう。森の木が赤い葉や黄色い葉を散らす頃、娘は木の幹に藁を巻いてやった。
またたく間に年月が過ぎた。木は、育つ様子も枯れる様子もなかった。娘はもう娘ではなくなっていたが、木の世話を続けていた。旱が続けば水をやり、嵐の前には支えを立ててやった。もしかしたら、今年こそ。ひょっとしたら、今度こそ…。
ある年の春、老いた娘は丘の麓から木を見上げた。木は、初めて見た時と同じ姿で立っていた。娘は丘に背を向けた。川を渡り、対岸から丘を見た。木は随分小さく見えた。娘は膝をさすりながら、坂を上った。峠に着くと腰を伸ばして振り返った。丘は見えたが、木はどこにあるのかわからなかった。
Commented by たんべえ at 2005-04-12 22:18 x
面白いですね。私もその木を知ってるような気がします。
Commented by konohana-bunko at 2005-04-14 18:14
たんべえさま、こんにちは。
お越し下さりありがとうございます。

諦めるのは難しいですね。
かと言ってこんな木ばかりでも困るやろうし…。
by konohana-bunko | 2005-04-12 09:32 | 空中底辺 | Comments(2)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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