『草色気流』 笠井朱実
2011年 02月 18日
姉おとうとさむき流星を待ちながら声合はせ読む「春はあけぼの」
シーソーがたがひちがひにかたむけり亡きひとに逢ふ四月公園
昔むかしたらふく花を食らひけむ守宮八手の花のごとき手
軒下に麻葉のきもの吊されて雨なり門家(もんや)古道具店
隣家にまちがひ郵便とどけゆくあをいサンダル草にしづめて
土耳古人葡萄牙耳人ふたひらの耳そよがせて海わたる春
君とわれとここに眠れり千年の記憶の果てのすすきかるかや
ゆく春を斜め斜めにひじやうなる階段はりつくビルの側面
少女らはスミス通りの雑貨屋の小籠の話きさらぎ電車
箱はさうと読むのださうだ百葉箱(ひやくえふさう)中庭のきよく不審なるはこ
わがむすこパン屋体験学習に落としてしまふたまご二十五
新井薬師門前町に子は住みてめろんぱん買ふ豆腐、傘買ふ
図書館のホルトノキへと繋がれて白犬百年主人を待てり
奈良の叔父逝く
宵市の金魚露天にやがみゐてひとつすくひつ赤いたましひ