河口

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河口       十谷あとり

  自転車の沈む河口を渡る鳥口笛のやうに鳴く鳥もゐた

灰を含み
塩を含んで
嬰児の食道を往き来する乳のようになめらかに動く水
暗い水
時間と距離と情動に
疲れて無表情な水面
に梅雨晴れの空の青が映る
濁濁と迫りながらコンクリートと鉄に遮られた水
わたしが生まれてはじめて見た川がこれ
橋は横倒しのお墓
水の上を艀がゆき
台船がゆき

  さかのぼる曳船いくつ運河にも流れはありぬ見えがたきまで

河口は鰓のような場所
なまめかしく
猥雑で純粋で

ここがわたしの川
渡るたびにわたしは浄められる
深くて足がつかないのではない
水には底がないだけ

いつか黒い水のかたまりがわたしの喉を遡って来たら
わたしは眼となって海へ流れ出でよう

 短冊に嘘書いた夜針千本針千本と川はきらめき
by konohana-bunko | 2011-07-22 10:07 | 空中底辺 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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