川端先生 改

友達のたづちゃんと団栗拾いに行って、その林で初めて柴栗を拾った。柴栗!浅蜊くらいしかない、でも正真正銘の栗。たづちゃんとわたしは掌の中の栗の艶に恍惚とした。そしてこの僅かながらの大収穫を誰かにプレゼントしたくなった。誰にあげたら喜んでくれるだろうか。相談の結果、大好きな川端先生にあげることに決めた。川端先生は痩せっぽちで、小父さんのようなお爺さんのような図工の先生だった。二人で学校へ走った。先生は図工室に居た。駆け寄って「先生、栗!」と差し出すと、掌に額を寄せるようにして先生は見た。ふむ。どこで拾った?わたしたちは大得意だった。その勢いで「これ、先生にあげる」と手渡そうとしたら、案に相違して、先生は受け取ってくれない。「先生にあげる」「あげる」としつこく纏いついていたら、しまいに「持って帰れ。先生に、拾った物を食えというのか」と背を向けられてしまった。たづちゃんは吃驚して身体を固くした。わたしは泣きそうになった。二人ですごすごと図工室を後にし、家へ帰る道々(先生、何であんなに怒りはったんやろ)(何か悪いこと、言うたかなあ)と言い交わしたことを、思い出す。当時「釈然としない」などということばは知らなかったが、まさに釈然としない思いをしたわけだ。
ひょっとしたら先生は(折角の栗なんだから大事に家に持って帰れ)と言いたかっただけかもしれない。偶々何かの事情で気持ちにゆとりのないところへ、こどもがうるさく絡んだものだから、邪険な物言いになってしまったのかもしれない。今のわたしはそう思っている。(そう思う自由がわたしにはある。)もちろん、本当のことは誰にもわからない。

林に射す西日のきらきら。図工室の木材や絵の具の匂い。汗っかきのたづちゃんの笑顔。川端先生のあの時のおそろしくぶっきら棒な声。遠い記憶。
Commented by nakajimaakira1948 at 2011-09-03 08:21
あとり さん、おはようございます!
良くわかりましたよ。
前回のでも、もしか「川端康成さんが先生かなぁ」とか
いろいろ考えて楽しかったです。

Commented by konohana-bunko at 2011-09-03 16:34
nakajimaakira1948さま 何だか舌足らずの文章で煙に巻いてしまいすみません。川端康成先生!うわー、それはぜひ習ってみたかったです。
by konohana-bunko | 2011-09-02 21:14 | 空中底辺 | Comments(2)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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