池とコルセット

川端先生は、いつも一人黙々と作業をしている後ろ姿の人だった。ある日、放課後の中庭で先生の姿を見つけ、傍へ行ってみると、先生は大きな篩を揺すっていた。大量の砂に、篩をかけているのだった。「先生、手伝う?」と訊いたが、先生は「これは大変やからいい」と首を振った。少し息が上がっていた。
次の日も次の日も先生の作業は続いた。わたしは毎日様子を見に行った。見るだけですることがないので、砂山の横に座ってリコーダーを吹いた。先生は汗を拭いながら「音楽があると、調子が出るナ」と言った。先生がちょっと笑ったのが嬉しかったので、音楽の教科書を次々めくって吹ける歌を全部吹いた。
同時進行で中庭の一角に杭が打たれ、杭と杭の間に糸が張られた。先生方全員がスコップや鶴嘴を振るい、盛大に土を掘り返す。コンクリートブロックを積むところまで大人総出でやり、川端先生はセメントを塗った。こうして中庭に新しい池が完成した頃、川端先生の腰には大きなコルセットが巻かれていた。
by konohana-bunko | 2011-09-05 13:42 | 空中底辺 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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