読書メモ 『木下利玄全歌集』 五島茂編 岩波文庫
2011年 12月 27日
付箋を付けた歌を転記してみます。正しい漢字表記は正字体。変換が煩雑なため新字体で打ちます。横着してすみません。
『銀』より
いもうとの小さき歩みいそがせて千代紙かひに行く月夜かな
風絶えてくもる真昼をものうげに虻なく畑のそら豆の花
真昼野に昼顔咲けりまじ\/と待つものもなき昼顔の花
踏切をよぎれば汽車の遠ひゞきレールにきこゆ夏のさみしさ
子供の頃皿に黄を溶き藍をまぜしかのみどり色にもゆる芽のあり
みちのくの一の関より四里入りし畷に日暮れ蛍火をみる
『紅玉』
街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る
ふる雨の枝葉つたひてしづくする音この森にこもれり、通る
まん\/とおもくくもれる夕べの川にぶく時なくわが前にうごく
山かひのわづかの畑のさゝげ豆畑つくり人今日は来ずけり
すゝき葉のさ青長葉のしげり葉のするどに垂れて風あらずけり
戸をしめて月をあびたる家の前を人なつかしく我はとほるも
まさやかに沈透(しづ)く小石(さゞれ)のゆら\/に見え定まらず上とほる波
夕さりの光ねむごろにあかるきににはとこの芽のよく\/あをし
がら\/を振りあきぬれば振りすさびつむりを打ちて泣きし吾子はも
『一路』より
葛飾の春田の水にあたゝかき嵐渡りて小浪よる見ゆ
大和路は田圃をひろみ夕あかるしいつまでも白き梨の花かも
着脹れて歩かされゐし女の児ぱたんと倒れその儘泣くも
太子前に電車を下りて太秦の夜寒をゆけば虫すだくなり
空の色瑠璃になごめり白梅の咲きみてる梢(うれ)の枝間々々に
一むら雲日をかげしたり土白き往還のいろ目にくらくなりつ
目路さむき冬田向こうの山もとに夕陽を浴びたる大仏殿の屋根
塔の下かわけるたゝきわが傘の雫の跡を印(いん)しけるかも
澄みくろみ冬川真水の流るゝに男洗ひおとす大根(だいこ)の土を
冬山はぬくとくもあるか裸木のしゞに枝くむ下は日だまり
牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ
地の上にてわが手ふれゐるこの欅は高みの梢(うれ)へ芽ぶきつゝあり
『みかんの木』より
なづななづな切抜き模様を地に敷きてまだき春ありこゝのところに
曼珠沙華一むら燃えて秋陽つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径
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「勧工場」とか「羅苧屋」とか、久し振りに見る古いことばが出てきた。「桑の葉」も。奈良に越して来たら近所の池の傍に一本だけ大きな桑の木があった。秋には鳥が濃い色の実を食べに来ていた。数年前道路が出来る時に伐られて、今はもうない。