松村由利子 『鳥女』より
2012年 03月 16日
みつみつと過去を抱きて太る秋くりのき栗の木なにも語るな
うす日差す水沼(みぬま)に憩うどの鳥も神を見るごと風上を向く
透きとおる鳥の魂あつめられ冬天かくも深き青なり
くりかえし繰り返す朝わたくしの死後も誰かが電車に駆け込む
地球はもうダメだと子ども言い放ち公文の算数解きにかかりぬ
女の子産まずに終わる生なるかどこか硬さの残るわが体
ああこれは本当のこと新聞の端から端まで貫く見出し
キッチンに光あふるるこの朝もどこかで女が殴られている
第三の性ある世界バクテリアのやや複雑な恋を思えり
キリギリス・イギリス・シマリス並び居て逆引辞典の楽しき夕べ
ガラス器の曇り見つけるふるさとは老いたる母に言わぬこと多し
結婚もシャッターチャンスも運次第 明日には明日の新聞が出る
IT化進む職場に3Bの鉛筆ありて木の香放てり
毎晩のように仕事の夢を見ていやだいやだと一葉も泣く
女らは鳥になりたしぬめぬめとやわきものもう産みたくなくて
歌集『鳥女』 松村由利子 本阿弥書店(2005)