松村由利子 『鳥女』より 

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『鳥女』より、好きな歌を引用。

みつみつと過去を抱きて太る秋くりのき栗の木なにも語るな

うす日差す水沼(みぬま)に憩うどの鳥も神を見るごと風上を向く

透きとおる鳥の魂あつめられ冬天かくも深き青なり

くりかえし繰り返す朝わたくしの死後も誰かが電車に駆け込む

地球はもうダメだと子ども言い放ち公文の算数解きにかかりぬ

女の子産まずに終わる生なるかどこか硬さの残るわが体

ああこれは本当のこと新聞の端から端まで貫く見出し

キッチンに光あふるるこの朝もどこかで女が殴られている

第三の性ある世界バクテリアのやや複雑な恋を思えり

キリギリス・イギリス・シマリス並び居て逆引辞典の楽しき夕べ

ガラス器の曇り見つけるふるさとは老いたる母に言わぬこと多し

結婚もシャッターチャンスも運次第 明日には明日の新聞が出る

IT化進む職場に3Bの鉛筆ありて木の香放てり

毎晩のように仕事の夢を見ていやだいやだと一葉も泣く

女らは鳥になりたしぬめぬめとやわきものもう産みたくなくて


歌集『鳥女』 松村由利子 本阿弥書店(2005)
by konohana-bunko | 2012-03-16 19:38 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり