現代短歌そのこころみ 関川夏央

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先月、『現代短歌 そのこころみ』 関川夏央(集英社文庫)をようやく読了。この本から、引用歌の孫引きになるが、自分のために書き写してみる。



沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ  斎藤茂吉

春のめだか雛の足あと山椒の実それらのものの一つかわが子  中城ふみ子

妻を得てユトレヒトに今は住むといふユトレヒトにも雨降るらむか  大西民子

悦びの如し冬藻に巻かれつつ牡蠣(ぼれい)は刺(とげ)を養ひをらむ  中城ふみ子

野に風のわかれのやうな愛終えてわれら佇つとき響(な)るまんじゆしやげ  小野興二郎

水風呂にみずみちたればとっぷりとくれてうたえるただ麦畑  村木道彦

奔馬ひとつ冬のかすみの奥に消ゆわれのみが累々と子を持てりけり  葛原妙子

あの夏の数かぎりなきそしてまたたった一つの表情をせよ  小野茂樹

目の前のそら明らめるさみしさや一房の藤を母もちたもう  浜田到

硝子街に睫毛睫毛のまばたけりこのままにして霜は降りこよ  浜田到

亡き母よ嵐のきたる前にしてすみ透りゆくこの葉は何  浜田到

ほらあれは火祭りの炎ふるさとに残った秋をみな焼くための  永井陽子

北鎌倉橋ある川に橋ありて橋あれば橋 橋なくば川  石原吉郎

今生の水面を垂りて相逢はず藤は他界を逆向きて立つ  石原吉郎

けふのみの武蔵国原手を振れば八月(はちげつ)の雲の涌きやまずけり  石原吉郎

家々に釘の芽しずみ神御衣(かむみそ)のごとくひろがる桜花かな  大瀧和子

佐野朋子のばかころしたろかと思ひつつ教室へ行きしが佐野朋子をらず  小池光

水滴のひとつひとつが月の檻レインコートの形を抱けば  穂村弘

暗い燃料(フエル)タンクのなかに虹を生み虹をころしてゆれるガソリン  穂村弘

夕闇の受話器受け(クレイドル)ふいに歯のごとし人差し指をしずかに置けば  穂村弘



写真は和歌山にて。ヨシのいとこみたいな植物は、ダンチク(暖竹)。
by konohana-bunko | 2012-09-26 11:38 | 読書雑感 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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