ひとつかみの夏雲が

両腕で大きなUの字を作って、机に突っ伏して目を閉じて下さい。あなたの左肩が金剛山と葛城山、左の肘が二上山、左手が生駒山です。右肩は高取山、二の腕は多武峰、肘が三輪山、そして右の指が若草山です。両腕に包まれた平らな街でわたしは暮らしています。蝉が鳴き蜻蛉が飛び、風が吹くと青い田面に白い光の波が走ります。古い家々の庭では百日草が咲き糸瓜が伸び、枝豆の毛むくじゃらの莢が太り始めています。ひとつかみの夏雲があなたの左腕を越え、わたしの街に影を曳き、あなたの右腕に向かって通り過ぎようとしています。この街に住んで初めて、夏山を撫でてゆく雲の影の美しさに気付きました。
by konohana-bunko | 2012-08-04 16:52 | 空中底辺

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり