前登志夫 『青童子』

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前登志夫歌集『青童子』(短歌研究社 1997)より、以下引用。



夜となりて雨降る山かくらやみに脚を伸ばせり川となるまで

炎天に峯入りの行者つづく昼山の女神を草に組み伏す

秋の日の障子を貼りて昼寝(ひるい)せり国栖びと漉きし紙のきりぎし

さくら咲くゆふべとなれりやまなみにをみなのあはれながくたなびく

朴の葉の鮓をつくりて待ちくるる武蔵村山かなしかるべし  司修氏に

神童子(じんどうじ)の谿に迷ひてかへらざる人ありしかな 鹿ありしかな

いまははやたのしきことの淡くしてイースター島の石人恋ふる

わが犬は悪しき犬なり山行ける主人(あるじ)を捨てて村をうろつく

往きてかへるくるしみなれや春畑(はるばた)にひかりをはじき硬き蟲来つ

髭籠(ひげこ)にぞ盛りあげたりし野の花を石となりゐる母に供へつ

ゆうらりとわれをまねける山百合の夜半の花粉に貌(かほ)塗りつぶす

炎天を運ばれてきし野葡萄のつぶら実守(も)ればわれは眞清水

虔十の死にたるのちぞ虔十の育てし木木は人憩はしむ

百済観音提げてゐたまふ水瓶(すいびやう)をあふれこぼるる春の日ありき

さくら咲くゆふべの空のみづいろのくらくなるまで人をおもへり

ことしまた梟啼きぬわたくしの生まれるまへの若葉の闇に
by konohana-bunko | 2012-10-24 19:35 | 読書雑感 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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