聞き耳頭巾

近鉄富雄駅から歩いて2分くらいのところに、悠南書房という古本屋さんがある。富雄駅をちょくちょく利用するようになって9年目になるのだが、この古本屋さんの存在を、つい最近まで知らなかった。不覚。もちろん、気が付いてからは折々覗きに行っている。
初めて行った時に買ったのは岡部伊都子の『奈良残照の寺』(淡交社/1966刊)。中身はもとより、表紙がとてもいい。入江泰吉撮影、元興寺極楽坊の行基葺瓦の写真である。
次に買ったのは西山厚(奈良国立博物館資料室長)の『仏教発見!』(講談社現代新書/2004刊)。知的障害を持つこどもたちに、「人は死んだらどこへ行くのか」を説明するくだりは読み応えがあった。
あとは川端康成の『掌の小説 五十篇』(旺文社文庫)など、財布の都合でこまごましたものばかり買っている。それでも好きな傾向のものが見つかるということは、相性がいいということなのかもしれない。

先週の金曜日、その悠南書房でのこと。わたしが文庫本の棚を見ていると、反対側の通路にお客さんが入ってきた。馴染みの人らしく、店主殿と話をしている。最初は意識して聞いていなかったのだが、知っている作家の名前が出たところで、アンテナのスイッチが入った。
お客さん 「最近、開高健全集ていくら位すんの?」
店主殿  「ああ…この間市に出てましたけどね。いくらやったかなあ」
お客さん 「あの、釣りの話でも何でも、やっぱり写真がええやろ?全集はな、文章ばっかりずらーっとあって、写真が入ったあらへんねン。」
店主殿  「ははあ。そうですか」
お客さん 「あれやったら逆に、文庫の方がええちゅうことやわな。」
振り返るのも失礼かと思ったので、わたしは背中で会話を聞いていた。お客さんは気の置けない様子で、「ご主人、また高う買うたって下さいや」なんて言っている。それを聴いているわたしの目の前の棚、11時の方向に、背の赤色も新しい『オーパ!』があるのが見えた。

「マジェスティック!」と叫びシクロに倒れ込む酔漢ありて開高健  十谷あとり
by konohana-bunko | 2005-05-23 18:44 | 古本屋さん見聞記 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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