読書メモ 大口玲子歌集 『トリサンナイタ』
2013年 04月 28日
筆先を水で洗へばおとなしく文字とならざる墨流れたり
この夜を耕されむと横たはる人体ありて人を待ちをり
酔別ののちの李白を長く思ひ独りのわれは氷を握る
大聖堂小聖堂ある教会の小聖堂に木のキリストが居る
「下駄履きは禁止」と掲げ雪の日の東北大学附属図書館
乳頭に馬のあぶらを塗りながらをりをり馬のまばたきをしつ
寒色のピカソ「母子像」八本の手首足首いづれも太し
雪の夜おもむろに子が開きたる絵本のきつねにきつねのにほひ
一時間六百円で子を預け火星の庭で本が読みたし
広瀬川おほかた凍り白鳥が泳ぎ割りたるひとところあり
瓦礫のなかにあまたの硯ありしこと電話に告げ来し夜を忘れず
引用終わり。
「吾亦紅」の章(幼児虐待のニュースを詞書にした一連)は読んでいるこちらも息が苦しくなった。