『5メートルほどの果てしなさ』 松木秀
2006年 07月 29日
カップ焼きそばにてお湯を切るときにへこむ流しのかなしきしらべ
核発射ボタンをだれも見たことはないが誰しも赤色とおもう
親指をナイフもて切る所からはじまる優良図書の『坊っちゃん』
あるときははらはらとふるかなしみの胡椒としての八月の雨
自動改札をくぐれば月の下ひとりひとりはひとり/ひとりへ
ふさふさと快癒を願う千羽鶴ぎゅうぎゅう詰めのまんなかの鶴
ゆうらりとわれのうしろをゆくものはこの世のことのほかにはあらず
引用終わり。
アフォリズムの横溢。インターネット上で、横書きで読んでもぎこちなさを感じない。読んでいて気持ちがいいのは、己を語らないところ、非常に乾いた表現であること。もし物足りないところをあえて言うとすれば、音のひびきや、ことばのイメージでうっとりさせてはもらえない、というところか。ふだん和歌/短歌を読まない人も、楽しめる歌だと思う。
(松木秀歌集『5メートルほどの果てしなさ』 歌葉28 BookPark 1,500円+税)