わたしのすきなうた 3

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林和清歌集  『匿名の森』より

眼をすすぐ夜の水には今日ひと日見て来たすべての道があふれる

夜毎キミと旅をかさねたある時は蝿しかゐない国にも行つた

あなたにはあなたの月がのぼること天人もいつか汗をかくこと

靭(うつぼ)公園よぎりてゆけば陰の径そこからはまた霜の領分

春雨が淵なす窓の下あたり流した雛が戻つてきてゐる

死につづけてゐるのも体力この春も式部の墓へ散りかかる花

きみの手の死蛍とわが手のなかの息づく蛍とり換へないか

午後四時のミルクスタンド白秋の手が垂れて壜を置けり空より

ほんたうは怖かつた師の大き手を握れば握り返す力が

この夢の質はざらざら木の床に砂をこぼした伴天連の足

ただただ好きな歌を抜き書きするたのしさ。普段は、歌集を読むのにとても時間がかかるのだけれど、この集はことばにぐいぐい引っ張られてあっという間に最後までたどり着いてしまった。〈恋人たちが訪れる蝿の国〉というグロテスクなメルヘン、流しても流しても戻って来る流し雛、卵ではなく牛乳壜を掴んでいる北原白秋の手。読み物として、これが楽しくないはずがない。
無論、「読めた」と「読み解けた」の間には、深くて暗い川がある。また折々、読み返すしかない。
Commented by やまんね at 2006-08-14 16:02 x
私はこの歌が気になります。
 きみの手の死蛍とわが手のなかの息づく蛍とり換へないか
中勘助『銀の匙』を読んでとても名文に唸りました。
Commented by konohana-bunko at 2006-08-17 22:38
『銀の匙』わたしも大好きです。日本版『星の王子さま』みたいだと思いました。
by konohana-bunko | 2006-08-14 10:16 | 空中底辺 | Comments(2)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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