『セラピロード』  山口和子

c0073633_2222135.jpg
ハンマーに打ち砕かるるアスファルトの音鈍くして桜ちりゆく

夏雲へジェット機の音吸はれつつ書棚に読まぬカミュは古ぶ

水盤に落す角氷きしきしと解けあひ赤く立つアマリリス

頤をずらしひたすらガムを噛む女もありて「さくら銀行」

カセットを無音の迅さに巻き戻し聴くはショパンのピアノコンツェルト

鉄材の組まれゆく音ときに鋭く響きて秋の晴れわたりけり
この集を読んでいて面白いなと思ったのは、作者の「耳」のつけどころ。

1首目、工事の音(振動)と、花びらがひりひりと震えながら散るさまがシンクロする。
2首目は飛行機の音があることによって室内の静寂に気付く。
3首目、ここには直接「音」は描かれていないけれど、音も見えそうな情景。
4首目、「無音の迅さに巻き戻し」が独特の表現だと思う。音楽は「無音」になるけれど、カセットテープの回転する音が聴こえる。
5首目、こんな風に詠まれると工事の騒音も爽やか。

こうして並べてみると、noisyな「音」が詩情を引きしめているのがわかる。作者の中には聴覚と詩情をつなぐ回路があるのかもしれない。
Commented by やまんね at 2006-09-09 09:54 x
ありがとうございます。思いもかけない批評に気づかされました。私は子供の頃から非常に視力が弱く、その分聴覚に頼っているところがあるのかもしれません。で、歌集に纏めてみて、オノマトペの多様にギョッとした次第です。
Commented by konohana-bunko at 2006-09-10 22:03
やまんねさま、このたびはご出版おめでとうございます!
拙い評で……他にもいい作品がたくさんありますのに、書ききれませんで申し訳ありません。
読んでいて、元気の出る歌集でした。「うっはうっは」ににこにこしています。(^^)
by konohana-bunko | 2006-09-07 22:23 | 読書雑感 | Comments(2)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
プロフィールを見る
画像一覧