『スサノオの泣き虫』  加藤英彦

c0073633_9292100.jpg
ゆっくりと書架が倒れてくる夢のうらがわで一人が殺される

誘(おびか)れてゆく暗がりへひとすじの繁みの水をわけてゆく舟

殺めたきひとりをさがす眼に会いてより心中に咲(ひら)く花あり

  児玉暁も小川太郎も高瀬一誌もあちら側へいってしまった。
むこうにもあたたかき岸辺があると思いはじめてよりなにか愉しき

昨夜(よべ)禽を裂きたる指がいま汝れの胸もとに触れたくてならぬ

夢の谷間を越えたくて銀いろに炎える自転車がほしいとおもう

病みいるは世界かわれか店先の狂(ふ)れたる時計ばかり鳴りいづ

苦しさに頭(ず)をふりはじむ鶏卵があと茹であがるまでの数分

汝がこばむこと求めむとする夜の男とはかくさびしきけもの

ゆるやかに解(ほど)かれてゆく蝶の道ふわりとあなたの河口にながれ
歌集から好きな歌を抄出することは、歌集を解体してしまうことではないのか、と、おそれつつ。

写真、二上山(ふたかみやま)の黄昏。
Commented by やまんね at 2006-09-12 17:34 x
歌集のタイトルに相応しい写真ですね。大津皇子の眠る二上山、本当に奈良にお住まいなのが羨ましい。歌集のあとがきに「限りなく日常の事実性から遠ざかることで、一首を自在な空間へ解き放ちたかった」が印象に残りました。
Commented by やまんね at 2006-09-13 18:07 x
歌を読むって、その時の心境で違ったりしますね。今、ある方の歌を調べたくって「日月」VOL83を開いているんですが、あとりさんの「東大寺」に釘付けになりました。前に読んだ時以上に、静謐な詠みぶりに唸ってます。
Commented by konohana-bunko at 2006-09-14 07:35
〉歌を読むって、その時の心境で違ったりしますね。

そうなんです。ここに抄出した歌では『スサノオの泣き虫』のよさが伝わらないんじゃないか…?と、自分でも思いながらの選択でした。純粋に楽しむために選ぶのか、誰かに何かを伝えたくて選ぶのか、それによっても違ってくるかもしれないし…。でもね、8首目の茹で卵の歌は本当にすごいと思いました。
by konohana-bunko | 2006-09-12 09:29 | 読書雑感 | Comments(3)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
プロフィールを見る
画像一覧