『まだ見ぬ書き手へ』  丸山健二

c0073633_22395647.jpg
帯に「非文壇的アジテーション」とあるように、「です・ます」で呼びかけるように書かれている。呼びかけるように、と言えばやさしい印象だが、内容は結構アツい。目に付くままに引用してみる。

・才能とは、広く世間で言われているように、普通の人よりも何か特別な力を持ち合わせているということではありません。むしろその反対で、普通の人が持っている能力をひとつかふたつ持ていないことなのです。それも、少しは持っているというような中途半端な形ではなく、見事に欠落しているということなのです。(p23)

・感性を太くするのは自立の精神に裏打ちされた前向きの姿勢から得た、奮闘の日々であり、あがきの体験です。そして感性を鋭くするのは、おぞましい浮き世の泥を進んでかぶる好奇心です。美しい絵画や、素晴しい文学や、人品卑しからぬ人物との出会いだけが感性を磨くのではありません。対象は何でもかまわないのです。美とは正反対に位置するものでもいいのです。芸術家たちが無視しているもののなかにこそ、それは満ち満ちているのです。(p60)

・切磋琢磨とはべたべたした付き合いのなかから生まれてくるものではないのです。あなたは人とではなく、作品とだけ付き合えばそれでいいのです。(p124)

・あなたはまだ、あなたの文学のほんの入り口に立ったに過ぎないのです。あなたの脳から、この先一体どんな作品が飛び出してくるのか、誰にも予測できません。もちろんあなた自身にも見当さえつかないでしょう。五年後には、十年後には、あなたの作品は現在あなたが限界と信じている線をあっさり越えているかもしれないのです。そのことひとつとっても、長生きする価値があるのです。そのための健康なのです。(p151)

・私たちに本当に必要なのは、体験の伴った知識なのです。あなたの五感や六感が捉えた生々しい情報なのです。(p165-166)

・自分は本当に書くに値するものを持っているのだろうか、などという評論家好みの自問を発してはいけません。あなたのような書き手は、そんなくだらないことで悩む必要はないのです。あなたがペンを握ると同時に書いてしまうことが、あなたにとって書くに値するテーマなのです。あなたは自分が何を書きたいのか知りたくて書いているのです。(p190)

・要するに書いてみなくてはわからないということです。書いてみなくてはわからないというところに、この仕事の面白さがあるのです。やってみなくてはわからないことなのに、やっていないときにくよくよ悩んだりしても始まりません。今は書くのを中断していても、いつの日かきっと、火山が爆発するように書くだろう、というようなことを夢見てはいけません。五年経っても、十年経っても、そこに待ち構えているのは、きょうと同じような、書く気があるのかないのか自分でもよくわからないような日々なのです。書かなかった分だけ腕が落ちて、ますます書きたくない理由が増えるのです。それだったら、ともかく毎日書きつづけたほうがいいということになりませんか。(p193-194)

引用終わり。今気がついたのだが、理想の作家論であると同時に、「まだ見ぬ理想の書き手に向けて語りかける」というひとつのファンタジーとしても、読める。

小説を書きたいと思いながらいつも途中で挫折していた17歳の頃にこの本と出会っていたら、痛すぎて最後までよう読み通せなかっただろうと思う。今は、かなり面白い。楽しめる。歳を取って、いよいよ開き直ったのか、どうか。

読みながら、小説と短歌の共通点/相違点について考えた。書く行為の孤独については、どちらも同じだろう。異なる点はいろいろあるのかもしれないが、自分が思いつくのは2点。ひとつは、短歌が「座の文学」としての性質を持っていること。もうひとつは、短歌が「感情の器」(←今、とっさに作ったことば)としての性質を持っていること。
Commented by at 2007-02-20 05:15 x
私は、書くということでは全く同じに、
すべて頷けることで、共感できることで、
小説と短歌、相違点が何もないように思えた。
(特にp124 徹底的に独りで書くということ。
(別の書き方を否定はしないけれど、あくまでも自分は。)
p 190、(は、リルケの言葉に似ていますね。
 p193-3 行き当たりばったりの中に意味がある。
逆に言えばそれぐらい難易度が高い。)

やっぱり、文章は読み手にとって受け手にとって、
いろいろ感想が違うものなんですね^^
Commented by konohana-bunko at 2007-02-20 22:45
祥さま ひとりで書ける自由が許されているからうれしいし、いろんな受け止め方ができるから読んでいて楽しいんでしょうね。
by konohana-bunko | 2007-02-19 22:40 | 読書雑感 | Comments(2)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
プロフィールを見る
画像一覧