『ぼくは本屋のおやじさん』 早川義夫

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『就職しないで生きるには① ぼくは本屋のおやじさん』早川義夫(晶文社)を読む。町の商店街で新刊書店を始めた青年の話。本屋開業のノウハウといった実用的な話ではなくて、本屋をやっている日常に感じたことを書いている。本が出来てお客さんの手に渡るまでの間に存在するさまざまな理不尽とか、店に来る人たちの人間模様とか、そこから話は広がって世の中の矛盾ややりきれなさ、そんな話。ほがらかな文章ではないので、読んでいる間ずっと辛気臭かったけれど、読み終わった後にはいやな気持ちは残らなかった。この人は本当は人間が好きなのだ。人間が好きで、みんながおだやかに生きていけたらいいのにと願っているから、思うに任せない時、もどかしかったり、苦しかったりするのではないか。
以下引用。

《町の病院の、待合室に行ってみよう。重症の患者もいるだろうに、子供がふざけて走り回っている。どちらかというと、僕は子供に注意をしない母親に腹が立つ方だから、さぞかし、看護婦さんや先生は頭に来ているだろうと思うと、ところが、注意をするどころか、元気だねとか、いたずらしている子がいれば、手伝ってくれてるのなんて話しかけたりするのである。やはり、見ないふりをしてイライラしているより、そういう姿の方がステキである。腹が立つということは、決して、その人に対して腹が立つということではなく、自分がうまく、その場をまーるくすることができないことに、腹が立ちイライラするのである。
こうして商売をしていると、いろんなことがある。近くの商店から両替にくる。もちろん、たまに両替するのはお互い様であるわけだが、それを毎日のように来たり、ひどいのになると、ハイコレといって一万円札をレジの上に置いて、そばにある漫画を読み出す男がいた。最初、なんなのかわからない。本を買うのかなと思って、何でしょうかと尋ねると、「五千円と千円と百円玉」なんていっちゃって、漫画のつづきを読み出すのである。何日か続いて、こちらが嫌味を言うと、それっきり、パタッと来なくなった。来なくなると不思議なもので、たまには、両替に来てくれてもいいのになと思う。》(p50-51「本屋にはいろんな人がやってくる」より)

写真、東洋陶磁美術館にて。
Commented by おやめいけ at 2007-08-26 09:45 x
早川義夫さんは、60年代にジャックスというバンドで活動されていました。高校生の頃、橿原神宮近くの貸しレコード屋さんにソロアルバムが
あり「売ってください」と頼みましたが譲っていただけませんでした。
朝日新聞で書評も書かれておられまでんでしたか?
Commented by konohana-bunko at 2007-08-27 21:25
おやめいけさま そうだったのですか。存じませんでした。早川さんの『たましいの場所』という本も読んでみたいと思いました。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4794965397.html
by konohana-bunko | 2007-08-24 21:47 | 読書雑感 | Comments(2)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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