新人歌人作品集  十首+エッセイ

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土曜日の点景   十谷あとり

古き曲流れてゐたり柘榴の実笊に盛りたる木の実の店に

紙の耳は波打つ浜辺海のなき町を廃品回収車過ぐ

皺おほく入り組む貌をもつ犬の歩み来てわれとすれ違ひたり

石畳に雨は降りそむ 石に落つる雨ははるかな海を呼ぶ音

にはか雨避けむと並ぶひと、ひと、犬、世界遺産の瓦の下に

飼い主に従ひ空を仰ぐ犬 雨宿りとは何かも知らず

何願ひし痕跡ならむ溶けのこる蝋に重ねて灯(ともし)を献ず

落雁の舌に消えゆくつめたさよ母が死んだらきつと淋しい

菊人形花のひしめく衣ひきこの世にあらぬ人ばかり佇つ

歯を磨けョ! カトちやんの笑顔見てしのちテレビを消せば夜は暗かりき



■最近、衝撃を感じた現代短歌

街ゆけばマンホールなど不安なるものの光をいくたびも踏む   佐藤佐太郎 『天眼』
佐藤佐太郎の、日課の散歩の中から詠まれた歌。写実詠と呼ばれる歌も、幻想的な前衛短歌も、それを醸成したのは作者が生きた現実の日々である。短歌というのはつくづく、日常から生まれる文学だと思う。わたしはわたしの日常の中で、こころ動かされる何かを見つけては、歌を書く。歌い続けるために必要なのは、諦めないことだけなのだ。きっと。

                 (「短歌研究」2007年11月号掲載)

Commented by やまんね at 2007-10-26 22:26 x
どの歌も落着いたモノローグ。心に入ってきます。しばらく短歌から心が遠のいていましたが、短歌っていいな・・・って思えます。
Commented by 通りすがり(毎日) at 2007-10-27 00:24 x
歌はまったくわかりませんが、そんな見え方するのか、そんなこと連想するのか、よくそんな表現が頭に浮かぶものだ、と、ただただ感心するばかり。でも、見てるだけで、とても楽しいです♪
Commented by konohana-bunko at 2007-10-28 20:56
やまんねさま 通りすがりさま ご感想、ありがとうございます。奈良界隈を散歩した時のことを書いた歌です。今日も用があって奈良に行きましたら、正倉院展などで大変なにぎわいでした。
by konohana-bunko | 2007-10-23 20:25 | 空中底辺 | Comments(3)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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