『風の風船』  西村美佐子

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ならまちにて。こんなバンビの柄のパジャマ着てたなあ。こどもの頃。



西村美佐子歌集『風の風船』(1991、砂子屋書房)より。

ていねいに折りてゆくとき色紙のかそけきこゑをゆびに圧(お)しつつ

ゆくりなく窓のない家おもほえり白砂糖一キロ壺にうつしつつ

ねむりゐるをさなごのからだやさしくて指の五本はたたみのうへに

あやとりの糸からまれば丹念に母なるゆびはほぐしゆくなり

をさな子の指いそがしく働きてぶだうパンよりぶだうとり出す

椅子の足五本ほど見ゆ寝ころべばものみなにはかに立ちて迫りき

猫を生んだことあるかと問へる子に驚くわれは否と言へざり

いはれなき死を強ひられし夢にゐてわれ従順にしたがふはなにゆゑ

ひそかなる夜のあゆみにときをりを鳴れる手提げの紙の袋の

落ちてゐし白紙(しらかみ)あればゆびさきにとりて一羽の鶴を生(あ)れしむ

針そつとひろひあげしときゆびさきにほそくつめたき水ながれたり
by konohana-bunko | 2008-04-10 22:51 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり