天馬と松浦屏風

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連休中の或る日、思い立って電車で出掛ける。近鉄学園前駅から、大和文華館へ。

大和文華館所蔵 松浦屏風と桃山・江戸の人物表現 ―女性表現を中心に―(5月18日まで)

大和文華館は里山のてっぺんにある小さい美術館。大きなアカマツの木をはじめ、雑木が茂っている山の中を、とろとろと上っていく。道なりに山野草や花木をたくさん植えて、季節の花が楽しめるようになっている。この日の花はちょうど端境期で、ツツジが目に付く程度。アジサイやフヨウの季節になればいい景色だろうと思う。
面白いのは、展示室。展示室の真ん中に、ガラス張りの小さい竹林がしつらえてある。孟宗竹、筍が何本かでていた。

展示で印象に残ったもの。
「伝俵屋宗達筆 伊勢物語図色紙 六段 芥川」業平が高子を背負って逃げるところ。絵の具がぽってりぽってりした感じ。逃避行なのに、何となく、のどか。
「阿国歌舞伎草紙」 阿国が踊る舞台に張られている幕が、ぐるぐるつむじ風の総柄なのがとても気になる。
「英一蝶筆 僧正遍昭落馬図」 遍昭が馬に振り落とされて背中を丸め足を天に向けてひっくり返っている。馬は首を振り振り、勝手に歩いていく感じ。遍昭が押しひしいでいる秋草など、露の冷たさが宿っているようで、妙に風情がいい。真面目な絵なのかふざけているのか、よくわからない。
「婦女遊楽図屏風」は、江戸時代のVOGUE Nippon。 うさぎの絞り柄の着物がすてきだった。

学園前駅から、奈良駅へ。次は国立奈良博物館。

特別展 天馬 シルクロードを翔ける夢の馬(6月1日まで)

MIHO MUSEUMからの出展品もあると聞いて楽しみにしていた。印象に残ったのは、中国の銅の鋳物の大きな馬。首をひねって後ろを振り返るような格好。それから、ポスターのデザインにも使われている、ギリシャの大理石の柱飾りの彫刻。でも一番気に入ったのは、「加彩騎乗俑 唐 8世紀」(天理参考館所蔵)。両手に載るくらいの小ぶりな陶俑。冠をかぶり、腰に小さなポシェットをつけた文官が、鞍に片手をかけて今まさに馬にまたがろうとしているところ。あれ、いいなあ。欲しいなあ。陶俑、好きなんだ。

つくられた馬を馬らしく見せている要素は何だろう、と、絵や像を思い出しながら考える。骨格。筋肉。鬣や尾は、長くても短くても案外気にならない。一番特徴があらわれるのは、顔。それも、顔面に浮き出る血管。あと、口を開けてむき出す歯。日頃見慣れた鹿と比べると、馬は随分猛々しい感じがする。



帰り道、博物館の近くのカエデの木、幹に開いた「うろ」から、シジュウカラがびゅっと飛びたつのを目撃する。鹿も人もぞろぞろ歩いている場所で、「うろ」といったって、わたしの腰くらいの高さのところ。(こんな人通りの多い、目に付くところに巣?!)見間違いかと思って、しばらく観察していたが、5分くらいの間に3回、出たり入ったり、した。出る時、白い塊を口にくわえて飛び出していったから、もう雛がかえっていたのかもしれない。何だかそっとしておきたくなって、写真は撮らなかった。

写真は薬師寺、玄奘三蔵院の中庭。
by konohana-bunko | 2008-05-10 22:40 | 日乗

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり