黒い水

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台風が近づいて、雨がたくさん降った。雨の中、自転車を押して坂を上り、橋の上から川を見た。普段は水が膝丈くらいしかない川、中州や両岸に葦が繁り、ウグイやコイがいたりサギが飛んでいたりする呑気な川なのに、今日は人の背丈くらいの深さの水が、葦などみんな押しひしいで、川幅いっぱいにぐんぐん流れているのだった。それも、いつもの雨の日のような土色や、粘土質の緑がかった濁りではなく、墨を溶いたような真っ黒な水なのだ。一気に増水したためにヘドロが流れだしたのだろうか。底からわき上がり沈み込むような水の動きの中に、ちぎれた草や芥が浮かびまた巻き込まれて見えなくなる。水全体が黒い生き物のかたまりみたいに、橋に向かって押し寄せては去ってゆく。

黒い水を見ると、幼かった頃見た川を思い出す。大きな川の河口近くを、黒い水が波も立てずに流れていた。安治川だったか、正蓮寺川だったか。この光景は、今でも夢に見る。吸い寄せられそうでおそろしいのに、目が離せない水。こわくてしかたないのに、なつかしい光景。
当時住んでいた借間は海のすぐそばだったのだけれど、海は見えなかった。埋立地の上にあったその町の西側は、倉庫や工場の塀に囲われていて、こどもは海には近づけなかった。海からは、風だけが吹いて来るのだった。
by konohana-bunko | 2008-09-23 11:15 | 日乗 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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