杉原一司 杉山隆

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『現代短歌大系11』より引用、最終回。

杉原一司

緋マントを羽織り公子に身をかへて憎い口説も慇懃にうけ

ものおきのピアノのキイをはねあるく幼時のゆびやわが母のゆび

巻貝の無為のあゆみはてのひらにまた不吉なる溝ほりそへて

はづせない腕環を誇る女との波紋の中の廃嫡子爵

サラダの皿、その裏がはにつづられし女給仕の愛のうちあけ

夏の陽に灼かれて日々をあるばかり石は花々のやうにひらかず

生ける樹に錆びたる釘をうちこめば想ひほつれてうるほふしばし

押せばひらくドアをくぐりて出でしときひくく垂れたる雲をみとめぬ

杉山隆  『羊歯の影』抄より

十八歳の教員たりし父の鞄今日ゆづられて一日ほしたり

朝磨ぐ米しろくしてかたくなに生きむ心を傷つけむとす

包み来て吾を連れ去る友らの声寂しき時に待ちてをりたり

階段をくだりゆくとき片側の漂ふ闇に心吸はれつ

初めての柩の重たかりしと言ひ顔たちまちにうち歪みたり
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引用終わり。
杉原一司(1926-1950)が鳥取県の人だというのは知っていたが、天理語専で仏語を学んだというのは知らなかった。歌誌「オレンヂ」を経て「メトード」で活動し、塚本邦雄に強い影響を与えた。
杉山隆(1952-1970)は栃木県の人。「コスモス」で宮柊二に師事、1970年(高校卒業の年)にコスモス第17回O先生賞を受賞するも、同年9月宇都宮大学農学部屋上から墜落死をとげた。
永田典子さんのおうちに、杉山隆の遺歌集『人間は秋に生まれた』があるというのを、ご本人から伺ったことがある。その昔、この本を借りて読んで、自転車に乗って返しに来たのが、まだ学生だった加藤英彦さんだった、という話も。

写真、10月上旬、キバナコスモスの蜜を吸うツマグロヒョウモン。上がオス、下がメス。メスの柄、きれいでしょ。トリミングなしでこれくらいに撮れるとうれしい。
by konohana-bunko | 2008-11-03 19:30 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり