カテゴリ:読書雑感( 263 )

『こころの旅』 神谷美恵子

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こころの旅 神谷美恵子 日本評論社(1974)

神谷美恵子については、名前だけは知っていたものの読んだことがなかった。今回この本で初めて出会った。
誕生期から死にいたるまでの人のこころの変遷をたどる、という1冊。テーマが大きいためにかなり枝葉を落とした概説となっている。先行者の引用が多いのでこの方面の本を読んでいない自分にはわかったようなわからないような、あるいは退屈なような気もしないでもなかった。ただどんな文章(新聞記事であろうが学術論文であろうが)を読む時も書き手のことばづかいが気になる読み手としては、神谷美恵子の語り口に感銘を受けた。湧き水のような文体だ。以下引用。

◆新生児ははじめ泣くことしかしない。これは泣く原因が多いというよりは苦しみの表現機構が発動されやすい状態で生まれてくるからだろうという意味のことをワロンはいう。生まれたばかりの子が自発的に示す感情が深いみじめさと苦痛であるという事実は、すべての人間に内在する「宇宙的メランコリー」または「世界苦」のあらわれである、とL・ウルフは自叙伝で述べている。少なくともほほえむこと、笑うことはあとから発達してくるという意味で、より高級な「業績」なのだろう。(p44)

◆どのような仕事、学問、業績を生きがいとしてきたにせよ、すべては時とともにその様相と意義が変わって行くものだ。自分のあとからくる世代によってすべてがひきつがれ、乗り越えられ、変貌させられて行く。その変貌の方向も必ずしも「進歩」とは決まっていない。分散か統合か、改善か変革か廃絶か、歴史の動向と人類の未来はだれが予見できるであろう。自分の過去の歩みの意味も自分はもとより、他人にもどうしてはっきりとわかることがあろう。その時その時を精一杯に生きてきたなら、自分の一生の意味の判断は人間よりも大きなものの手に委ねよう。こういうひろやかな気持になれれば自分の過去を意味づけようとして、やきもきすることも必要でなくなる。いたずらに過去をふりかえるよりは、現在まわりにいる若い人たちの人生に対して、エリクソンのいうような「執着のない関心」を持つこともできよう。彼らの自主性をなるべく尊重し、自分は自分で、生命のあるかぎり、自分にできること、なすべきことを新しい生きかたの中でやって行こう、という境地になるだろう。(p170)

◆地球上の生と死は互いに支え合う関係にある。生命の進化も、多くの生命の死の上に成り立っていることは明白である。おそらく生と死とは、さらに高い次元の世界で調和しているにちがいない。(p218-219)
by konohana-bunko | 2005-09-17 10:54 | 読書雑感 | Comments(0)

うたのよみかた

出掛ける時は鞄に本を入れていく。電車の中で本を読む。高校生の時もそうしていた。「新潮文庫夏の100冊」なんかの中から選んで買っていた。20年以上前の話。開高健や倉橋由美子が好きだった。当時はあの100冊の中に、夏目漱石や森鴎外も入っていたように記憶している。「硝子戸の中」や「阿部一族」も読んだ。でもどんな話だったか忘れてしまった。

今電車で読んでいるのは『百珠百華―葛原妙子の宇宙』(塚本邦雄/花曜社/1982)。最近、電車で読むのは歌集が多い。

本当にいいと思う歌集を読むときは、ルーズリーフかノートを用意して、(おお)と思った歌を書き写しながら読む。(もちろん、電車の中で書くわけだ。)時間はかかるし面倒といえば面倒だが、この読書にはそんな苦を上回る楽しみがある。歌集は、一首一首にこころを入れないで読めば、何分文字の少ないものだけに、あっという間に読み終わってしまう。書き写すという作業を上乗せすると、目でなでるだけで次には行けない。一行の詩を数度読むことになる。助詞のひとつひとつが、はっきり見えてくる。

好きな歌を書き写す時に感じる気分――肩こりと面倒さ、喜びと擬似達成感の入り混じった怪態な高揚感――を、確か以前にも感じたことがある。何してた時の気分やったかなあ、とずっと記憶をたどっていて、思い出した。これは、こどもの頃、手塚治虫のアニメを見て、それを真似して絵を描きまくっていた時の気持ちと同じだ。

あの頃、サファイアの愛馬オパールは、何度描き直しても犬にしか見えなかった。アニメが短歌になっただけのことで、自分は一向変わっていないのかもしれない。
by konohana-bunko | 2005-07-15 11:44 | 読書雑感 | Comments(0)

2005年の読書(上半期)

今年は思い立って、読書の記録を付けてみることにした。1月から6月まで読んだ本は以下の通り。

『チベットの生と死の書』ソギャル・リンポチェ
『インターネットで古本屋さんやろうよ!』芳賀健治
『安永蕗子全歌集』安永蕗子
『文学でたどる世界遺産・奈良』浅田隆・和田博文
『カミとヒトの解剖学』養老孟司
『ナラ・レポート』津島佑子
『駆け出しネット古書店日記』野崎正幸
『ブッダの真理のことば・感興のことば』中村元訳
『瘢痕』原田禹雄
『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』北尾トロ
『蘇小小の歌 李賀歌詩集』原田憲雄
『駱駝祥子』老舎
『あむばるわりあ・旅人かへらず』西脇順三郎
『雪沼とその周辺』堀江敏幸
『仏教発見!』西山厚
『高丘親王航海記』渋沢龍彦
『シュナの旅』宮崎駿
『本を書く』アニー・ディラード
『日経アソシエ05.5号』(あなたを目標に導く日記&ブログ術)
『実践ドリル版 頭がいい人の習慣術』小泉十三
『無冠』橋本喜典
『坂の上の雲』司馬遼太郎
『遊星の人』多田智満子
『時代はブログる!』須田伸
『火星年代記』レイ・ブラッドベリ
『アイデアのつくり方』ジェームズ・W・ヤング
『人より10倍速く成功するための図解スピードノート』起業家大学
『考具』加藤昌治
『ぼくんち(全)』西原理恵子
『新・いのちの食紀行』(写真集)やずや
『本をつんだ小舟』宮本輝
『〈むなしさ〉の心理学 なぜ満たされないのか』諸冨祥彦
『猫のいる日々』大佛次郎
『あるがままに生きる』足立幸子
『司馬遼太郎が考えたこと 1』司馬遼太郎
『怒涛の虫』西原理恵子
『雀の手帖』幸田文
『コンスタンティン』(ノベライズ)竹書房
『前川佐美雄全集 Ⅰ』前川佐美雄
『掌の小説』川端康成
『聞き書 大阪の食事』農文協
『熊の敷石』堀江敏幸
『回転ドアは、順番に』穂村弘・東直子
『金輪際』車谷長吉

県立図書館で借りた本があり、新刊で買った本、そしてもちろん古本屋で買った本もある。中にはもう、売れていった本も。
書き落としているものもあるとして、合計44冊。なかなか捗(はか)が行かないものですな。
by konohana-bunko | 2005-07-10 18:41 | 読書雑感 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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