カテゴリ:空中底辺( 272 )

岩倉具視

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岩倉具視の五百円札というのは子供心に非常に存在感の大きなものであった。父から手渡されたそれを握りしめ、売り声を頼りにわらび餅売りのトラックにたどり着きはしたものの、さて何個買って帰ればよかったのかがわからず、五百円分大パック五個を提げて帰ったらひどく呆れられた、という、夏の記憶。
by konohana-bunko | 2013-07-23 18:14 | 空中底辺 | Comments(0)

歩く抜け殻

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マンションの入口の石畳の上を、蝉の抜け殻が歩いていた。抜け殻が歩く訳はないので、それは羽化直前の蝉の幼虫だった。人に踏まれても気の毒なので植え込みの木の幹に掴まらせた。翌朝見に行くと、幹に抜け殻、その横に羽を休める熊蝉がいた。蝉、恩返しに来るかな。朝の六時に耳許で元気に鳴くとか。
by konohana-bunko | 2013-07-17 18:15 | 空中底辺 | Comments(0)

包みが届く

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水色の紙包みが届く。遠い国の、まだ見ぬ友から。注文した商品が来ることはよくあるけれど、前触れのない贈り物を受け取るなんて何年ぶりだろう。裏返すと中で音がした。鈴!いつまでも包みを開けないで、時々そっと振って、小さな鈴の音を懐かしんでいたいと思った。何が入っているかは知らないまま。
by konohana-bunko | 2013-07-03 20:34 | 空中底辺 | Comments(2)

文月小景

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夕暮れの田圃道。南瓜がなり、茄子がなり、凌霄花が零れ落ちている。柘榴の木には鶏卵大の実、桑の実は大方鳥に食われた。早苗田の真中に軽鴨の番がいる。向かいの家の白い犬が、俯せのまま鳥の方をじっと見ている。小芋の畝のあたりで蛙が鳴いている。明日からまた雨か。雨が止んだら、蓮を見に行く。
by konohana-bunko | 2013-07-02 20:32 | 空中底辺 | Comments(0)

夜の路地

深夜の路地を自転車でゆく。いつも洗濯物の多い家が雨戸を閉てて静もっているかと思えば、昼間はひっそりしている家の台所の窓が大きく開いて、窓の内側の吊り棚に伏せてある黄色いボウルに蛍光灯の光が照っているのが見えたりする。自転車を軋ませながら辻を曲がる。南の空が開けて、赤い星が見えた。
by konohana-bunko | 2013-07-01 20:30 | 空中底辺 | Comments(0)

絵を描く

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無性に絵を描きたくなったことがあった。米国の骨董商のサイトで見つけたチベットの六臂の銅像。画像を手本にスケッチブックに鉛筆で描いた。描きだすと手を止められなくなり電車の中で続きを描いた。結崎駅辺りで影を付け終え、(描けた……)とため息をついたら、隣席の見知らぬ女性が頷いてくれた。
by konohana-bunko | 2013-06-29 20:29 | 空中底辺 | Comments(0)

歌反故

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小さな体験を歌にしようといじり始めたらイメージが膨れあがり、それに頭を占拠されたまま、何日も何日も茶碗を洗ったり洗濯物を干したりする羽目に。今朝ご飯を食べている時にようやく歌の姿が見え、乳歯が抜けるようにぽろりと成った。歌反故をまとめて雑巾みたいにぎゅっと絞って、ゴミ箱にほかす。
by konohana-bunko | 2013-06-26 20:27 | 空中底辺 | Comments(0)

新聞

新聞を取らなくなって数年。ニュースはテレビから、本の情報はネットからで十分。やめてみて気付いたのは「古新聞をくくって決められた日にほかす」という作業は結構な負担だったということ。今まで新聞に費やしていた時間を読書や物思いに当てられるようになった。ただぼんやりしていることも多いが。
by konohana-bunko | 2013-06-26 20:25 | 空中底辺 | Comments(0)

雨の夏至

雨の夏至、十九時。一年で一番長い日もさすがに暮れてしまった。窓を開けると濡れた庭が冷たく匂う。蛙の声がきれぎれに聞こえてくる。厚い雲の上、今どの辺りを、大きな月は渡っているのだろうか。
ところで雲の裏側ってどちら側だろう。地表に面している側なのか。それとも天に面している側なのか。
by konohana-bunko | 2013-06-21 20:22 | 空中底辺 | Comments(0)

ペナルティ

はじめての美容院に予約を入れたのに約束の時間に行けなくなった夢。詫びの電話をしたところ「本来ならペナルティとして100%の料金をもらうところだが来店してアシスタントに手をついて謝まりその後アシスタントと笑顔で握手ができたら許す」と告げられ謝罪の予約を入れる羽目に。嫌なうなされ方!
by konohana-bunko | 2013-06-18 20:21 | 空中底辺 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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