カテゴリ:空中底辺( 272 )

硝子の猫

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或る古本屋さんに行くと、レジの横の台のところに、硝子細工の猫の置物が飾られている。置物といえば大層だが、箸置きより小さいミニチュアである。白い手足の先に色をつけた、シャム風の猫。これが好きで、お勘定をしてもらう間、ちょいと指でつまみあげて、眺めて、また元に戻すのが、小さな楽しみ。
by konohana-bunko | 2013-04-04 17:53 | 空中底辺 | Comments(0)

アトリ

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川沿いの桜並木はガードレールのない一車線の道で、花に気をとられていると後から来た車に警笛を鳴らされて飛び上がりそうになる。昨日そこを走っていたら散り始めの一樹が騒がしい。スズメに似ているがより柔らかい鳥の鳴き声がする。声の主を確かめてみたくなり、路肩に自転車を停め、歩いて戻ってみたら、それはアトリだった。五十羽ほどのアトリの群れが花の蜜を啄みながら目まぐるしく飛び交っていたのだった。木の下に立つわたしの目の前を、アトリが毟った桜の花が、五弁の形を保ったまま、竹とんぼのようにくるくる、くるくると舞い落ちていった。アトリから挨拶をしてもらったような気がした。
by konohana-bunko | 2013-04-03 17:51 | 空中底辺 | Comments(0)

旋風

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雨が止み、半ば乾きかけた舗装の上に、桜の花片がたくさん落ちている。まだ散ったばかりの花片は、風が吹くと浮き上がる。地表近くでくるくると旋風を作り、アスファルト表面の小さな凹凸に蹴躓きながら転がる。その旋風の輪を踏み越え、自転車で駅へ向かう。どんなに冷たくても、今朝の風は春の風だ。
by konohana-bunko | 2013-04-03 17:47 | 空中底辺 | Comments(0)

はるのあらし

あめがふつてきた ぴあのをふおるていしもでひくやうなあめがさくらのはなのうへに ぢめんにしもばしらをみつけたらふんでこはさずにはゐられないこどものやうに それらがうつくしければうつくしいほど そつとみまもつてゐることにたへられないなにかがふらすあめ あつ いま かみなりがひかつた
by konohana-bunko | 2013-03-31 17:41 | 空中底辺 | Comments(0)

影絵

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朝になって雨が止んだ。空一面の雲、もしくは雲いちめんの空。空気は白く湿って冷たい。芽吹きはじめた花水木に来ては飛び去る雀も、電線に止まってひとり脹れている山鳩も、二階の陸屋根の角に陣取った磯鵯も、みんな真昼の影絵になってしまった。鳥たちの声だけが、鮮やかな色を帯びて聞こえてくる。
by konohana-bunko | 2013-03-29 17:39 | 空中底辺 | Comments(0)

花桃

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川沿いの空地に野菜を作っているひとところがある。囲いの結わえ方、豆の支柱の立て方など如何にも素人くさく、大した野菜が出来ていそうにもないのだが、いつ見ても草だけはきれいに取ってある。そして、そこここに花を作っている。切花にも出来ないであろうに、何故かパンジーの一畝があったりする。
そして、いかにもその場その場の思いつきで植えてみた風の梅や椿や花蘇芳の木がある。昨日そこを通りがかったら、枝垂れの木に濃い紅色の花が咲き始めている。梅のような梅でないような、と眺めていたら、奥から小父さんが出て来て「それは花桃」と教えてくれた。きれいやろ。実は食べられへんけどな。
畑とも庭ともつかぬ一隅だが、子供の着物みたいに赤い桃が咲き、その下に喇叭水仙が向き向きに咲いている景色には、曰く言い難いうつくしさがあった。花桃は実で増やせると小父さんは言った。もうじきあっちの方に桜桃も咲くで。桜桃の花もな、きれいで。小父さんはそう言って焚火の方に戻っていった。
by konohana-bunko | 2013-03-27 17:31 | 空中底辺 | Comments(0)

マタニティバッジ

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急行に乗る。運良く席が空いていたので座ったら、私の前に若い女性が立った。彼女の鞄には「おなかに赤ちゃんがいます」のバッジが。慌てて席を譲り隣の車輌に移動、丁度席が空いたので座ったら、次の駅でまたマタニティーバッジをつけた女性が私の目の前に!吃驚。でもあのバッジは分かり易くていい。
by konohana-bunko | 2013-02-22 17:27 | 空中底辺 | Comments(0)

母の日曜日

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母は梅田に買物に行くのが好きだった。私を連れて行きたがった。別珍のワンピースを着せ、ナイロンレースの痒い靴下、エナメルの靴を履かせて。地下鉄で四十分、梅田に着く直前に必ず眠くなり母に嫌がられた。百貨店の食料品売場は息苦しかった。自分の欲しいものだけ買って、母は楽しそうにしていた。
by konohana-bunko | 2013-02-16 17:25 | 空中底辺 | Comments(0)

おじゃる丸

昨日の「おじゃる丸」。子鬼らが二匹の子猫を見つける。アカネが猫を抱き上げ、猫を触ったことのなかったキスケにも抱かせて喜こぶ。しかし猫は二匹なのでアオベエに抱っこさせる猫が足りない。するとアオベエ「じゃあわしは猫を抱っこしているお前たちを抱っこするでごんす!」アオベエ、何と男前な。
by konohana-bunko | 2013-02-15 17:21 | 空中底辺 | Comments(0)

宝交早生

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苺は市場の軒下で売られていた。浅い木箱に無選別の苺が入っていた。値段を太い字で書いたへぎ板が立ててあった。 苺下さい、と言うと、小父さんはプラスチックの板で苺を掬い、茶紙の袋に入れ、秤で重さを量った。(端っこの大きい粒入れてくれへんかな)と期待しながら小父さんの手許を見ていた。 木箱の苺が減ると、底に敷いた新聞紙が露わになった。新聞には苺の果汁が染みていた。柔らかいものが乱雑に扱われる時、無傷で済むものもあればあえなく潰れてしまうものもある。その結果としての赤をいつも、じっと見てしまうのだった。鮮やかさと酷たらしさを同時に感じて恍惚としていたのだった。
by konohana-bunko | 2013-02-15 11:15 | 空中底辺 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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