カテゴリ:空中底辺( 272 )

花の名はすべて春の光

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朝、開店前の園芸店で、花木の苗が並んでいるのを見る。桜桃、山茱萸、三椏、連翹、小手毬。白梅、紅梅、梅八重咲き、枝垂れ梅。河津桜、啓翁桜、枝垂れ桜、花海棠。沙羅の木。花桃、照手桃。ライラック、キングサリ、花水木、ひなびた山桜桃。 今、苗はまだ枝ばかりの姿で、ポット植えの根元には今朝の雪さえ残しているけれど、その枝先にある芽、各々の木に相応しい色と形の芽を見れば、その内におそろしいまでの力が充ち満ちていることがわかる。花芽の一つ一つに完璧な花を隠し持っていることがわかる。これらが一斉に咲いたところを思い描くだけで、幻の春の気に包まれるようで、くらくらする。
by konohana-bunko | 2013-02-09 11:19 | 空中底辺 | Comments(0)

小夜更

小さな鍋に水と牛乳、紅茶の葉を入れて沸かす。鍋の縁から細かい泡が生まれ、増え、鍋の中央に雪崩つつ噴き上がる。チャイをカップに注ぎ、ああやっとひとりになれた、と思う。ひとりでも満ち足りていられるひとりになれた。私は『100万回生きた猫』に出て来る、あの白い猫のように老いてゆきたい。
by konohana-bunko | 2013-02-08 11:20 | 空中底辺 | Comments(0)

粘土の熊、粘土の月

小さな女の子が熱を出した。母は仕事を休んで添寝をした。娘の無聊を慰めようと父は粘土を買って来た。父と娘は粘土で様々な物を作って遊び、母はそれを写真に撮った。twitterに流れて来た粘土の熊、粘土の月。その表面の指跡を見ていて思う。人は愛されてしか育たない、育てないということを。
by konohana-bunko | 2013-02-04 11:24 | 空中底辺 | Comments(0)

まだ春になってはいけない

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夜、雨が降った。妙に暖かく、土の匂いのする雨。むわむわと皮膚の表面が膨らみ、身体と外界との境界線が曖昧になりそうになる。まだ春になってはいけない。暦に記された立春の文字と、盆地を覆う冬の空気、これらの懸隔をもう少し味わってからでなくては。窓を開けると鵯が飛び去った。蠟梅が匂った。
by konohana-bunko | 2013-02-02 11:25 | 空中底辺 | Comments(0)

虎耳草

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子育て世帯ばかりで騒々しかった団地の一階に、お爺さんが住んでいた。窓の下に花壇を作っていた。そこに咲いた花をしゃがんで眺めていた私に、ユキノシタという花の名を教えてくれた、そのお爺さんの名前が思い出せない。お爺さんだと思い込んでいたけれど、まだせいぜい六十歳位だったかもしれない。
by konohana-bunko | 2013-01-31 22:17 | 空中底辺 | Comments(0)

百年の冬

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朝、蠟梅の枝に仕掛けた輪切りの蜜柑に、次々と鵯がやって来る。啄んでは飛び去る鵯を見ていた息子が、毎日同じ鳥が来るのか、と訊く。さあ、どうなんだろう、全く見分けがつかない。鵯に訊いたらわかるんだろうか。鋼色の曇り空に向かって蠟梅の花が咲いている。こんな冬が百年続いてもいい気がする。

写真は長谷寺の寒牡丹。
by konohana-bunko | 2013-01-26 22:12 | 空中底辺 | Comments(0)

冬晴

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冬晴。窓に背を向け本を読んでいたら、卓上に猫が来た。太陽に尻を向けて香箱を作る。全身の毛の奥まで日の温みを含ませ、満ち足りた鳩のように喉を鳴らす。猫には猫のしあわせがあるのだろう。かく言う私も猫の背を撫でている時は満更でもない気分だ。今朝も五時に踏み起こされて眠気は兆すけれども。
by konohana-bunko | 2013-01-06 22:10 | 空中底辺 | Comments(0)

大丈夫

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電車に乗っている時、洗濯物を干している時、前触れも理由もなく淋しさが兆す瞬間がある。心の底に穴が開いていて、隙間風のように入って来てしまうのだ。さっき買物から帰って来る時にも、来た。日暮れの空を見上げた。雲間が僅かに明るかった。(大丈夫、大丈夫)と声を出しながら、自転車を漕いだ。
by konohana-bunko | 2012-12-25 22:05 | 空中底辺 | Comments(0)

シムシム

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『本は読めないものだから心配するな』に出て来る、シムシム(=セサミ)というシリアのパンの話。《胡麻がふりかけてあり、薔薇水で味と香りをつけた砂糖のシロップに浸してある。おだやかで心を落ち着かせてくれるその香りは、口をかぐわしく甘くさせ、両手と唇をべたべたと汚す。》食べてみたい!
by konohana-bunko | 2012-12-20 22:05 | 空中底辺 | Comments(0)

校訓

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高校の卒業式で「人に愛される人、信頼される人、尊敬される人になろう」という校訓を指し「みんな人を愛する人、信頼する人、尊敬する人になろナ」と言った先生。当時の先生と同年代になってようやく、先生の人柄のよさがわかってきた。あと、生徒にちょっと格好ええことを言うてみたかった気持ちも。
by konohana-bunko | 2012-12-19 11:08 | 空中底辺 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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