読み終わった本をしばらく寝かせておいて、ふたたび開くと、付箋がたくさん貼ってあって不思議な感じがする。
黒瀬珂瀾 歌集 『蓮喰ひ人の日記』 短歌研究社 (2015年)より、以下引用。
オフィーリアの指を離れて沈み初め続くる芥子のあかあかと夜
紅きベレーを被れるごときポストかな時に漱石の愚痴を呑みたり
この夏に一枚の葉を加へたる児よいつまでも飲み乾せ父母を
明日へわれらを送る時間の手を想ふ寝台に児をそつと降ろせば
眠りたる頬に浮かびし児の笑みのやうに去りゆく秋のひと日は
われら国を離りて――吾妹、汝が水に触るるとき静かなり寒の獅子
妻と児があれば吾など誰でもいいひかりを諾ひ生きゆかむかな
引用終わり。本当は「日記」なので、一首一首に日付があり、詞書がある。詞書そのものにもたくさん付箋を貼っていた。
歌集というよりは、小説を読むような、スリリングな読書だった。