バスの中で

70過ぎのお婆ちゃんが二人、大きい声でしゃべっている。
「麻薬てあれ何やてナ、芥子から作るねんてナァ」
「へ、芥子てあの、あんぱんの上にまぶってるアレ?…ほんなわたい、しょっちゅう食べてますで?!」
バスの中は人目があるので、笑いをこらえて聞いている。笑いって、こらえると増幅する。
また別の日、お肌に水をかけたら蓮の葉みたいにコロコロっと弾きそうな、二十歳前後の娘さん三人の会話。
「花火見てたら、『たーまやー』て言うやん?」
「あ、言う言う、『たーまやー』『かーじやー』て」
「『かじや』??『鍵屋』やで?」
「えーー?うそーーー!(赤面)」
花火があまりに見事で火事みたいだから『火事や』だと思っていたとのこと。
# by konohana-bunko | 2005-09-13 10:01 | 日乗

夜道

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先日温泉に行った時、こどもの頃住んでいた家に風呂がなかったことを思い出した。
二日に一度、夜遅くに、歩いて五分ほどの銭湯に通っていた。
母と二人でのことが多かったが、時に父も加わって、三人連れ立って出掛けることがあった。
三人で銭湯に行った日は、帰りが楽しみだった。銭湯は坂の上にある。帰り道は公設市場の裏を回って下る急な坂である。そこを通る時は、父と母に手をつないでもらう。
「いち、にの、さんしてェ」
とわたしが言う。すると父と母は手に力を入れてわたしを持ち上げる。二歩か、三歩くらいの間、わたしは足を前に上げて、ぶらんとぶらさがって宙を移動する。下り坂だから、地面がどんどん離れてゆくように見える。夜空に向かって浮いてゆくような気持ち。
父と母が腕の力を弛める。わたしの足はぱたりと着地する。もう一回。いち、にの、さん。また手にぐんと力が入って、わたしはぶらんと浮き上がる。そして、ぱたり。もう一回。いち、にの、さん。いち、にィの、さん。

街灯のない、暗い道だった。公設市場の裏側で、道の傍に木のトロ箱が積み上げられていた。冬には、街路樹の梢の上に凍えるようなオリオンが輝いているのが見えた。

あの頃のわたしに、父と母の手をしっかりとつなぎ合わせる力があったのだ、と、今、気付く。
# by konohana-bunko | 2005-09-12 17:15 | 空中底辺

木箱を眺める

11日(日)は所属結社の歌会へ。場所はいつもと同じ京橋駅。ちょっと遅れ気味に会場に着いたら、Oさんのお隣が空いていて座ることができた。Oさんにお目にかかるは久し振りだったので、うれしかった。
前半は通常の歌会、後半は最新号の歌誌の作品の合評。10首なり20首なりの掲載作品の中から自選1首の意見を伺うというスタイル。この合評が、きつーい。(泣)でも効くー。(笑)今回は1首にしぼって、というやり方だったために、いつもより強く「1首で立つ歌の難しさ」を痛感した。歌誌に載せた歌の感想というものは滅多に伺えるものではないので、これはとても貴重な学びの機会。
休憩の時に、数人の方とちょこちょこっとお話をする。歌集をいただいたS宗匠に御礼を申し上げたり、上梓に関するエピソードを伺ったりできた。これもうれしいこと。
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行き帰りに通るツインビルの1階ホールで、古本市を発見。ををを!と強い引力を感じるが、今日は遠目で眺めるだけにとどめた。うーん、木箱いいよなあ。
# by konohana-bunko | 2005-09-11 20:29 | 日乗

フロントラインプラス

毎年、というわけでもないが夏になると猫に蚤が湧く。猫も痒がるがわたしも痒い。何を隠そうわたしは虫好き(一部例外あり)でもあるが虫にも好かれる人種らしく、家族の中でもダントツに噛まれるのである。蚤に噛まれると実に痒い。おまけに痒みが1週間ほど続く。
蚤が湧いたらフロントラインプラスを使うしかない。今まで「ノミ取り粉」だの「ノミ取り首輪」だのいろんなものを使ってみたが実際に効果があったのは「目の細かい櫛」とフロントラインだけだった。
かかりつけの獣医さんに薬を分けてもらいに行く。この薬は獣医さんのところでしか売っていないのだ。先生には、蚤が湧いたこともさることながら、「まだ外へ出たがるんですか」と呆れられる。そうなんですよねえ。猫は本当は室内飼いにしなきゃいけないんですよねえ。だが由緒正しき野良猫出身のちょんぴはがんがん出る。去勢しても出る。出てはやられるのである。
フロントラインは効果は絶大だが、欠点がないわけではない。ひとつにはどうも副作用があるようで、うちの猫の場合は翌日かなり吐く。薬そのもので気持ち悪くなっているのか、それとも薬で蚤が死んでゆくのを感じて一生懸命毛づくろいするために胃に毛玉が溜まるのか、そのあたりははっきりしない。個体差もあると思う。もうひとつの方の副作用は人間に出る。財布が痛む。1箱6本入6,300円(税込)である。
(写真/フロントラインに悪酔しているちょんぴ。翌日には元気になりました。)
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# by konohana-bunko | 2005-09-10 18:18 | 猫是好日

乗り換えうろうろ

通勤で近鉄の大和西大寺駅を利用している。ここは京都・大阪・奈良・橿原と4方面へ電車が出ている乗換え駅である。通い始めた頃はここの乗換えで困った。島式のホームが3面、つまり乗り場が6つあるわけだが、どこ行の電車がどの乗り場から出るのかがわかりにくいのだ。奈良行はまだわかりやすくて1・2番ホーム(1つの島にいればいい)なのだが、橿原神宮前行の電車は1・2・6番ホームのどこかから出る。で、その都度案内表示を見て、次は6番線の普通(各駅停車)かな、いやでもその次の急行の方が早く着くかな、そしたら、ええ、1番線でええの?といちいち確かめる。確かめてから跨線橋で渡る。間違えたら戻って来ればいいがその間に電車が行ってしまうこともある。うろうろするのである。最近はさすがに慣れた。しかし昨日の朝は難波行の準急に乗るつもりで京都行の急行に乗ってしまった。駅の構造だけの問題ではなさそうだ。orz
この駅を利用するたびに親しく見上げている案内表示が新しくなった。(写真参照。)以前は「先発」「次発」の2行表示だったものが、「先発」「次発」「次々発」と3行の表示に変わり、よりわかりやすくなっている。あとは、よく確かめて乗るだけ、だナ。
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# by konohana-bunko | 2005-09-08 11:13 | 日乗

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり