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ものの名

辞書や図鑑を繰っていて、調べものに関係のないこと、特に動植物の名に目を惹きつけられることがある。例えば、ヤマボウシ。花を見て(これ何ていう木やろ)と思っていたので、まず名前が判ったことがうれしく、そしてその名の音にも文字にも趣のあることがなおうれしく、ますますこの木が好きになった。
「ヤマボウシ」と声に出して呼べば、走り梅雨の湿った風の匂いや、繁る青葉の小暗さ、あるいは秋に色づいた丸い実が思い浮かぶし、「山法師」と文字に書けば、あの折紙で拵えたような白い包が、木の間隠れに覗く行者の白い衣のようにも思える。名前を知ると、名前一つ分だけ、私の中の世界が深く、広くなる気がする。
うつくしいものの名を覚えたら、何とか自分のことばとして使ってみたくなる。歌にうたいたくなる。ものの名のうつくしさに、せめて礼することができればと願いながら詠む。気持ちの弾みに見合う程うまく歌になるかどうかは別として。
by konohana-bunko | 2011-11-20 12:58 | 空中底辺 | Comments(2)

読書の記録 神無月

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『河岸忘日抄』 堀江敏幸 新潮文庫
『しでんとたまご』(絵本) 川崎洋さく 佐藤国男え 福音館書店
『ちいさなにわのちいさなむしたち』(絵本) 岩本敏男さく いとうひろし え 福音館書店
『中勘助の恋』 富岡多惠子 創元社
『I<わたし> 真実と主観性』 デヴィッド・R・ホーキンス著 立花ありみ訳 ナチュラルスピリット
『金襴緞子』(歌集) 久保芳美 六花書林
『水牛の余波』(句集) 小池正博 邑書林
『渾齋随筆』 会津八一 中公文庫
『橘曙覧評伝』 折口信夫 文部省教学局編纂 日本精神叢書53

『渾齋随筆』は読んでよかった。奈良のことがたくさん。歌のはなしも。ことばに、表現に、向かってゆく粘り強さ。何年か前に買った『自註鹿鳴集』は、微に入り細に入る註釈の「こうるささ」に負けて途中で投げ出してしまった。今なら読めるかもしれない。読むべきかもしれない。

10月、久し振りに心斎橋のブに行ったら、いつの間にか京都三条のブみたいに200円のお店になっていた。(随分前からそうなっていたのだろうと思う。半年以上来ていなかったのかも。)その分よさそうな本がいっぱいで、棚を見ていて楽しかった。『水牛の余波』を見つけた時はとてもうれしかった!表紙の写真、格好いい。水牛好き。
by konohana-bunko | 2011-11-08 14:33 | 読書雑感 | Comments(0)

読書メモ 『モーツァルトの電話帳』永井陽子

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『モーツァルトの電話帳』 永井陽子  河出書房新社

永井陽子、細切れにしか読んだことがなかったのでうれしい。
カバーに著者の写真があしらわれている。帽子をかぶって、喫茶店(?)の席に座っているところ。そういえば『サラダ記念日』(河出書房新社)のカバーも著者の写真だった。同じデザイナーの装幀だろうか。
これ言うてええんかどうか、著者の写真の表情が、全然しあわせそうに見えない……。

あまでうすあまでうすとぞ打ち鳴らす豊後の秋のおほ瑠璃の鐘

エジソンの竹より作るフィラメントへ思ひはおよぶ合歓の咲くころ

大雨が空を洗ひてのちのこと芭蕉がまたしても旅に出る

十人殺せば深まるみどり百人殺せばしたたるみどり安土のみどり

ちちと鳴きあはれ狂へる色彩に呑み込まれゆくゴッホのひばり

夏空のほとほとかたき群青も食ひつくすべし鵯の悪食

荷を解けばあかき南蛮人形がころがり出づる昼のたたみに

ぬけぬけと春の畳に寝てゐたり御伽草子の長者のごとく

のこのことファゴットの音歩みゆきまたかへりくる二百十日を

比叡山おばけ屋敷はいまもあそこにあるのだらうか なう 白雲よ

ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり

仏壇の久遠堂とぞゆふぐれはほのかに春のひかりを灯し

酔(ゑ)ひたれば関八州は暮れがたの火のしましまや風のだんだら
by konohana-bunko | 2011-10-05 17:12 | 読書雑感 | Comments(0)

読書の記録 長月

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『大女伝説』(歌集) 松村由利子 短歌研究社
『奇妙な本棚 詩についての自伝的考察』 小野十三郎 第一書店
『モーツァルトの電話帳』(歌集) 永井陽子 河出書房新社
『四季の呼吸』 桑島玄二 書肆季節社
『近世歌人の思想』 玉城徹 不識書院 (再読)
『雨たたす村落』(あめたたすむら)(歌集) 小黒世茂 ながらみ書房
『さまざまなうた』 富岡多惠子 文藝春秋
『えほんをつくる』 栃折久美子 大月書店
「ku:nel」an・an増刊 2002.11.15 もうすぐ冬じたく

・桑島玄二は林さんのブログの記事を見て無闇に読みたくなって入手。よかったよ!これは大事に置いておきたい詩集。

大阪に野田阪神といふ町の場末にありてよろしかりしが

って好きだなあ。歌会に出てたら選ぶなあ。

・ku:nel、古いのはタイトルの文字が違った。星ヶ丘のsewing tableの特集があった。

・この間ブで『河岸忘日抄』と『回送電車』を見つけてうれしくなった。今、『河岸忘日抄』を読んでいるところ。面白いので、ゆっくり読んでいる。小説の中の時間に合わせると、どうしてもゆっくりゆっくりになるような、そんな話。水上の隠遁生活、いいなあ。でも絶対酔うナ。

こんな男いじめてみたし旅に読む堀江敏幸はんなりとして  松村由利子

・写真は志賀直哉旧居にて。手ブレ。
カメラ本体に引きつづき、外付けハードディスクが毀れた。しまいこんだ写真のデータは水に書く文字。消える、というのも、いっそ爽やかなのかもしれない。これからはちょっとでも気に入った写真があったらどんどんblogにupすることにする。
by konohana-bunko | 2011-10-04 15:38 | 読書雑感 | Comments(0)

読書メモ 『大女伝説』松村由利子

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『大女伝説』 松村由利子 短歌研究社

古楽器をわわしき今に響かせて少し苦しきピリオド奏法

頂点とは悲しき極み信長の天正九年馬揃えの儀

春は鯨 大潮の夜ぽっかりとかすてら色の月が上れば

六月の鯨うつくし墨色の大きなる背を雨にけぶらせ

ニット帽に耳を隠して街ゆけば耳安堵せり誰も誰も見ず

ああ人はいやだと思う水無月の粘菌図鑑に原色多し

末端のライターとして書くときに編集部かくも遠き城なり

こんな男いじめてみたし旅に読む堀江敏幸はんなりとして


写真は高畑町にて。女の子、かわいいけど、何でさかさま?
by konohana-bunko | 2011-10-04 15:09 | 読書雑感 | Comments(0)

河口

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河口       十谷あとり

  自転車の沈む河口を渡る鳥口笛のやうに鳴く鳥もゐた

灰を含み
塩を含んで
嬰児の食道を往き来する乳のようになめらかに動く水
暗い水
時間と距離と情動に
疲れて無表情な水面
に梅雨晴れの空の青が映る
濁濁と迫りながらコンクリートと鉄に遮られた水
わたしが生まれてはじめて見た川がこれ
橋は横倒しのお墓
水の上を艀がゆき
台船がゆき

  さかのぼる曳船いくつ運河にも流れはありぬ見えがたきまで

河口は鰓のような場所
なまめかしく
猥雑で純粋で

ここがわたしの川
渡るたびにわたしは浄められる
深くて足がつかないのではない
水には底がないだけ

いつか黒い水のかたまりがわたしの喉を遡って来たら
わたしは眼となって海へ流れ出でよう

 短冊に嘘書いた夜針千本針千本と川はきらめき
by konohana-bunko | 2011-07-22 10:07 | 空中底辺 | Comments(0)

読書の記録 皐月

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「皐月」という文字、キーを叩けば簡単に出てくるが、日常、手で書くことはまずない。何も見ないで書けないかもしれない。手で書かないでいると、読めても書けない字がどんどん増えてゆく。

「皐月」という文字で思い出すのは、競馬。昔、家族にひとり競馬の愛好家がいて、非常に熱心に取り組んでいたものだった。毎週末、新聞を広げてテレビを食い入るように見る。何ごとか、熱心にメモを取り、黒電話で何処かに電話を掛ける。ときに、舌打ちをしたりため息をついたりする。こどもごころに、集中するというはこういうこなのかと思って見ていた。親の背中を見て子は育つのである。

閑話休題。

『流』 安東次男句集 ふらんす堂(文庫)
『茂吉の方法』 玉城徹 清水弘文堂
『中勘助詩集』 谷川俊太郎編 岩波文庫
『花の詩集』 串田孫一・田中清光編 筑摩書房
『犬の足あと 猫のひげ』 武田花 中公文庫
「書標 かきしるべ」2011年4月号 ジュンク堂
『「首の後ろを押す」と病気が治る』 松久正 マキノ出版
『良寛』 吉本隆明 春秋社
『現代歌人文庫22 浜田康敬歌集』 国文社
『「運命」を跳ね返すことば』 坂本博之 講談社+α新書
『残花亭日暦』 田辺聖子 角川文庫
『家族・カップル・友だち・みんなで健康になる!足圧整体 しあわせになる足法』 丁泰丹 じゃこめてぃ出版
『芭蕉の恋句』 東明雅 岩波新書
『黒と白の猫』 小沼丹 未知谷
『珍品堂主人』 井伏鱒二 中公文庫

『残花亭日暦』、「わしはあんたの味方やでぇ」がこころに沁みた。他に書いたあったこと全部忘れてもこれだけは覚えとこ。ここ一番のときに誰かにそう言えるように。

「書標」は、ご来店のお客様が、わたしの分を余分にもらって来て下さったもの。「島田さんが『昔日の客』のことを書いた記事がよかったので……」と仰って。そのお気持ちがうれしかったです。ありがとうございます。

写真、おふさ観音さんにて。
by konohana-bunko | 2011-05-28 14:44 | 読書雑感 | Comments(0)

このはな文庫について お問い合せ/アクセス

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◆このはな文庫について

・古本屋です。2005年3月、奈良県にて古物商を取得。普段はオンライン専門で、
Yahoo!オークションに出品しています。
現在取扱中の書籍はこちら→このはな文庫 マイブース
・2009年6月より、大阪市中央区のボタン店「ボタン王子のお店」内に
本棚を展開いたしております。
永井宏さんの「文章のワークショップ」から生まれた作品集(同人誌)
蟻とステッチ』リニューアル号、販売中です。(¥500)
短歌同人誌『かばん』毎月号販売中です。(¥500)

◆所在地/営業時間

〒541-0047 大阪市中央区淡路町2-6-10 大阪毛織会館4階
アールシンクス株式会社 ボタン王子のお店 内 このはな文庫
TEL 06-6228-5300  FAX 06-6228-5445
info@artsynchs.co.jp

営業日:月曜日~金曜日 11:00-19:00 土曜日 11:00-18:00
定休日:日曜日、祝日

◆アクセス

大阪市営地下鉄
御堂筋線 淀屋橋駅 11番出口/本町駅 1番出口
堺筋線  堺筋本町駅17番出口/北浜駅 6番出口 より いずれも徒歩7分
地図は→こちらをクリック☆

◆「ボタン王子のお店」について

ハイクオリティボタンのセレクトショップです。ヨーロッパからのヴィンテージボタン、国産高級ボタンを中心に取り扱っております。ボタンおひとつからお気軽にお買い求めいただけます。お手持ちのお洋服や生地に合うボタン探しのお手伝いを喜んで承ります。
オンラインショップはこちら→ボタン王子のお店
blogはこちら→☆ボタン王子のボタンダイアリー☆

◆十谷あとりについて

大阪府生、奈良県在住。短歌を詠みます。「日月」所属。このはな文庫店主。
著書:歌集『ありふれた空』(北冬舎/2003/版元在庫切れ。このはな文庫に在庫あり)
by konohana-bunko | 2011-05-20 19:41 | お問い合わせ | Comments(0)

読書の記録 卯月

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『ルナアル詞華集』 内藤濯訳 グラフ社
「大阪人」vol.45 2011年4月号 特集 50人が語る大阪愛
『人、イヌにあう』 コンラート・ローレンツ 小原秀雄訳 至誠堂
『メルヒェン集 盗賊の森の一夜』 ハウフ作 池田香世子訳 岩波文庫
『歌集 藍歌』 牛山ゆう子 砂子屋書房
『詩人 伊藤靜雄』 小高根二郎 新潮新書

「大阪人」は、林哲夫さんの〈佐野繁次郎と宇崎純一〉を目当てに買いに行ったら、佐々木幹郎とか富岡多惠子とか涸沢純平とか天牛さんの写真とか、堺筋本町と三好達治の詩「乳母車」とか、いろいろ好きな人の記事が出ていて大いに得をした。和田大象さんも書いておられた。和田さんお元気そうで何より。

写真は4月26日、長谷寺の八重桜。今年は牡丹がゆっくりで、この日はまだほとんど咲いていなかった。今はもう咲いている筈。今週末くらいには見頃かナ。
by konohana-bunko | 2011-05-02 23:20 | 読書雑感 | Comments(2)

『戸塚閑吟集』  岡部桂一郎

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岡部桂一郎歌集『戸塚閑吟集』(不識書院/1988)より、以下引用。

ひとり行く北品川の狭き路地ほうせんか咲き世の中の事

まかげしてみる街道に荒れ果てし二階の商家首吊りの家

沈黙に縛りつけられたりしもの例えば歩む一匹の犬

天の川空にかかりて丈高き夾竹桃の花を暗くす

運動をはじめし独楽が定めなく静かに位置を移しつつあり

山里の畑に煙草の花咲けば家より出でて口笛を吹く

「花吹雪空に鯨を泳がせん」豪毅まぶしもよ遠き談林

まっすぐにわれをめざしてたどり来し釧路の葉書雨にぬれたり

きれいでしょう、ねえ見て見てと吾に咲くアラセイトウの花嫌いなり

谷戸の道まだ陽のたかく真鍮のラッパを吹けり豆腐屋が来て

いろいろないろいろなことありまして麦藁帽子の黒きリボンよ

ころがって行って止まった鉛筆が秋の灯下にふり返りけり

引き潮となりたる河口難儀してのぼる艀の夕暮れ五分

節分の豆撒く聞けば亡き数に入りし幼秋童女その声

書見台に紅絹の袱紗をかぶせたる江戸青楼図風に高く飛ぶ

少年の心は熱しうら若き母の手にもつウテナクリーム

淡彩の蔬菜譜かすか首あおき蕪をかきて蟻かたわらに

春来んと端やわらかにひるがえる紙を押えて鉄の文鎮

重々と坂のぼる音こもりつつ胴あらわれぬトラックの胴

岩国の一膳飯屋の扇風機まわりておるかわれは行かぬを

若ければジゴクノカマブタという花のつまらなく咲く春の畦道

写真機にかぶせて覗く繻子の切れ表の黒く裏の真っ赤さ

夕づく日差すや木立の家の中一脚の椅子かがやきにけり

のびやかに物干竿を売る声の煙のような伊勢物語

引用終わり。前にも読んだことがあるが、何度読んでも好きなものは好き。
ページをめくって、覚えている歌が出て来ると、なつかしい人とすれちがったような気持ちになる。
by konohana-bunko | 2011-04-15 09:24 | 読書雑感 | Comments(0)

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり
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