最近読んでいる本 黒沢組歌集 「街道」 第八号

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黒沢組歌集 「街道」 第八号 風卵舎 2024年3月20日発行

今年の春に読んで、机の上に置いたままになっていた。
本を読んでも、手を動かさないと頭が働かない。読まなかったことと同じになってしまう。
すっかり今頃だが、好きだなと思った歌をいくつか引用させていただく。

・少女らの赤、青、黄のヘルメット春風が行く自転車が行く
  横田初子 「空っていいよ」より

・鶏頭の花は重たいかぶりもの被るおんなの頭のようで
  青沼ひろ子 「太陽の柚子」

・六畳の部屋に座って風の声きく夕刻はペソアの詩集
  浅川洋 「東風」 

・深海の魚の形のしろいくも風に喰われた頭と骨だ
  榎並宏子 「喰われる」

・波を越え渡るあとりの一群のいちはいちはの体温みとむ
  黒沢忍 「ああ海ね」

・手術後の夫の手握る名を呼べば握り返す手こんなに厚い
  五味雅子 「ペレケの鮭」

・透きとおる肋骨樹肌に護られて良き内臓を弥勒は持てり
  坂本まゆみ 「月を持つ」

# by konohana-bunko | 2024-08-20 14:08 | 読書雑感

最近読んでいる本 佐藤弓生歌集『モーヴ色のあめふる』

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佐藤弓生歌集『モーヴ色のあめふる』(書肆侃侃房/2015年)より、好きだなと思った歌を以下引用。

・手で包むこどものあたまあたたかい種がいっぱい詰まってそうな

 ――「あたたかい種」って何て素敵な表現なんだろう。一度読んでしまったらこのイメージを忘れることができない。

・天は傘のやさしさにして傘の内いずこもモーヴ色のあめふる

・ふくらはぎに陽射しひくくふれてくるプラットホームもう脚ばかり

 ――駅という、ひたすら移動する場所の特徴を言い得て妙。

・まんまるな月ほどいては編みなおす手のやさしくてたれか死ぬ秋

・月寝(い)ねしのちの沙漠をなおゆける骨ゆらゆらと王子王女は

・座席からのぞけばのぞきかえされる夏の月夜のみじかい旅に

 ――鉄道の旅と読んだ。さしのぞく月の眼差しがやさしい。短夜、月光をかえす二条のレールの上を揺られてゆく旅。

# by konohana-bunko | 2024-07-16 23:02 | 読書雑感

最近読んでいる本 飯田有子歌集 『林檎貫通式』

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現代短歌クラシックス01 『歌集 林檎貫通式』 飯田有子著 (書肆侃侃房/2020年)

『林檎貫通式』について書いた拙文が、うた新聞令和6年6月号「近年刊行のオススメの歌集」に掲載されています。そちらで紹介しきれなかった歌を以下引用。

・北半球じゅうの猫の目いっせいに細められたら春のはじまり

・ハンドルに白い如雨露をひっかけて夏生まれの人が自転車で行く

・帽子屋のシャッターゆっくり巻きあがり下からあらわれる麦わら帽たち

・ときどきどこかへとてつもなく帰りたい眼科検査の気球への道

・セコムしていないおうちの軒先の朝顔夕顔ふうせんかずら

・深々と夜更けの米びつうつそみの肘までうずめて何かにふれる


# by konohana-bunko | 2024-07-03 22:34 | 読書雑感

『漢詩一日一首 春・夏』より、ほんの少し

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『漢詩一日一首 春・夏』より、ほんの少し引用。

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人生行楽在勉強  人生の行楽 勉強に在り

人生の楽しみは、「勉強」にある。この勉強は、日本語の勉強に似て、似ない。むりをすること、むりやりにでもすること。人生の楽しみは応分に、などいわず、むりやりにでも享受すべきである。

(p122 花と娘 欧陽修 の解説より)

―――

江畔何人初見月  江畔 何れの人か 初めて月を見し

この大川のほとりの月を、誰がはじめて見たのであろう。この大川の月は、いつはじめて人を照らしたのであろう。
悠久のむかし、太古のころ、この月をはじめて見た人、人をはじめて照らした月は、という問いかけは、平凡でない。

(p185 春江花月の夜 張若虚 の解説より)

―――

「江畔何人初見月」というくだりに触れて、この歌を思い出した。

・三輪山の背後より不可思議の月立てりはじめに月と呼びしひとはや  山中智恵子

# by konohana-bunko | 2024-04-29 19:23 | 読書雑感

最近読んでいる本 一海知義 『漢詩一日一首』春・夏/秋・冬

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一海知義著 『漢詩一日一首』春・夏、秋・冬(2冊組) (1976年刊/平凡社)

和歌にもおおく影響を与えている漢詩に少し触れてみたい、漢詩の入門書といったものをひとつ読んでみたいと思っていたところに、天牛書店さんで見つけて買い求めてみた。
難しさに途中で投げ出すのではないかと思っていたが、非常に読みやすく、解説も行き届いていて、手を取って案内してもらっているように楽しく読むことができた。
一海先生に漢文習いたかった。
付箋はたくさん貼ったものの今はゆっくり引用を打ち込むことができそうにない。再読、再々読の際に気に入ったものを記録したい。

余談。先日来、家人のテレビ鑑賞に相伴して中国のテレビドラマを観ている。これがまたすこぶる面白い!「兵聖(孫子兵法)」から今は「大秦賦(始皇帝天下統一)」。人間は今も昔もずっと戦争しているのだなとつくづく思い知らされる。

# by konohana-bunko | 2024-04-14 00:15 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり