『伊東静雄詩集』 桑原武夫・富士正晴編
2010年 08月 17日
淀の河邊
秋は来て夏過ぎがての
つよき陽の水の光に遊びてし
大淀のほとりのひと日 その日わが
君と見しもの なべて忘れず
こことかの ふたつの岸の
高草に 風は立てれど
川波の しろきもあらず
かがよへる 雲のすがたを
水深く ひたす流は
ただ黙(もだ)し 疾く逝きにしか
その日しも 水を掬びてゑむひとに
言はでやみける わが思
逝きにしは月日のみにて
大淀の河邊はなどかわれの忘れむ
(原文「来」「黙」は旧字体。)
写真、車窓より佐保川を望む。