夜空

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最近新聞で読んでいいなと思った天空の歌二首

眞砂ナス数ナキ星ノ其中ニ吾ニ向ヒテ光ル星アリ  正岡子規

〈「はやぶさ」〉
その帰路に己れを焼きし「はやぶさ」の光輝かに明かるかりしと  美智子皇后

写真はクリスマス前の御堂筋。



夜、駅前のコンビニに行こうと、自転車を出した。十二年使った黒い自転車。自転車屋の小父さんに、今度チェーンが外れたらもう直せないと言われた自転車は、ペダルを踏むたびにかららん、かららんと乾いた音をたてる。街灯のまばらな道を漕いでゆくと、道沿いの用水路から、ふわっと何かが舞い上がった。どこかの家のベランダから、洗濯物でも落ちたのかと思う。漕ぐのをやめずに、横目で追うと、その黒くてやわらかそうなものは羽ばたいてわたしの前に出て来た。それは大きな鳥だった。烏だろうか。暗くてよくわからない。羽ばたいているのに風を切る音が聞こえない、音をたてず、光も返さず、影そのもののようなそれは、ふわ、ふわ、とやわらかく目の高さを左に曲がった。わたしもその辻を左に曲がった。曲がった角にはあたらしいアパートがあり、水銀灯がこうこうと点っているのだが、今そこに飛んでいたはずの鳥の影はもうどこにも見えなかった。かららん、かららんという音だけがわたしに従いてくるのだった。
by konohana-bunko | 2011-01-04 22:52 | 日乗

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり