河口
2011年 07月 22日
自転車の沈む河口を渡る鳥口笛のやうに鳴く鳥もゐた
灰を含み
塩を含んで
嬰児の食道を往き来する乳のようになめらかに動く水
暗い水
時間と距離と情動に
疲れて無表情な水面
に梅雨晴れの空の青が映る
濁濁と迫りながらコンクリートと鉄に遮られた水
わたしが生まれてはじめて見た川がこれ
橋は横倒しのお墓
水の上を艀がゆき
台船がゆき
さかのぼる曳船いくつ運河にも流れはありぬ見えがたきまで
河口は鰓のような場所
なまめかしく
猥雑で純粋で
ここがわたしの川
渡るたびにわたしは浄められる
深くて足がつかないのではない
水には底がないだけ
いつか黒い水のかたまりがわたしの喉を遡って来たら
わたしは眼となって海へ流れ出でよう
短冊に嘘書いた夜針千本針千本と川はきらめき