叢の記憶

六歳の夏。虫を追って叢に入った。胸の高さの草を漕ぎ分ければ、無数の禾が光に揺れ、虫を見つける前に眩暈がしそうだった。そして転落。深い荒溝の底では、友達の声すら聞こえなかった。一瞬にして自分からズレてしまった、緑一色の世界。あるいは、あの一瞬で、わたしが世界からズレてしまったのか。
by konohana-bunko | 2011-08-29 14:14 | 空中底辺

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり