ものの名
2011年 11月 20日
「ヤマボウシ」と声に出して呼べば、走り梅雨の湿った風の匂いや、繁る青葉の小暗さ、あるいは秋に色づいた丸い実が思い浮かぶし、「山法師」と文字に書けば、あの折紙で拵えたような白い包が、木の間隠れに覗く行者の白い衣のようにも思える。名前を知ると、名前一つ分だけ、私の中の世界が深く、広くなる気がする。
うつくしいものの名を覚えたら、何とか自分のことばとして使ってみたくなる。歌にうたいたくなる。ものの名のうつくしさに、せめて礼することができればと願いながら詠む。気持ちの弾みに見合う程うまく歌になるかどうかは別として。