皇帝ダリア

近所の畑で初めて皇帝ダリアを見た日のことが忘れられない。竹めいた茎、南天を大きくしたような葉、何よりその丈の高さ。二階の屋根まで伸びた茎の先で、やわらかそうな花がゆらゆら揺れている。よく見れば確かに花も葉もダリアの形を備えているのだが、最初は圧倒されるばかりで何の花か見当もつかなかった。
一体何だこの花は。一度立ち止まって見上げたら、花から目が離せなくなってしまった。今までに見たこともない花。初冬の曇り空に向かってわらわらと咲き揺れている、薄桃とも薄紫ともつかぬ大輪の花。それは季節外れの七夕飾りのようで、仄かに禍々しく、見れば見るほど不安になってくるのだった。
茫然と突っ立っている私の傍を、駅へ急ぐ人が次々と通り過ぎて行く。こんなに目立つ花が咲いているのに、誰も目を上げて見ようとしない。それでますます気味が悪くなった。この世界の中で、この花のことを知らないのはわたしだけ?まさか。花がわたしを見下ろしている。すごくきれいで、いやな花だと思った。小走りで家に帰った。
by konohana-bunko | 2011-12-01 15:03 | 空中底辺

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり