うた新聞令和元年9月号を読む

うた新聞令和元年9月号を読む_c0073633_22175439.jpg
うた新聞9月号を読む。

長月作品集 渡辺恵子 「放心の体」5首より
・とくとくと小説の筋を語りつつときをり団扇に風を送り来
・鬼百合の花あかあかと反り返り夏野にしまし放心の体

一首目、語っているのは誰だろう。それとは書かれていないけれども、記憶の中の出来事のような気がする。若かった(幼かった)わたしを団扇であおぎながら語ってくれた父、母、あるいは祖母……。
そうではなく、親しい友達、文学好き同士かもしれない。団扇だから、よそいきじゃなく普段の暮らしの匂いがする。安心して話し合える間柄、そこにあった親密な空気が感じられていい。
二首目、下句が格好いい。暑さの中茫然と立ち尽くしているのだ。鬼百合とともにあるかなきかの熱風に吹かれているのだ。

巻頭評論 松平盟子 「晶子短歌への〈読み〉の深さ」
記事の中に引用されていた与謝野晶子のこの歌が好きだ。
・ふさがれて流れざる水わが胸に百年ばかりあるここちする
澄んでいても底の見えない水。百年と示された時間。こういう気持ち、確かに感じたことある。その気持ちを、こういう風に率直に、しみじみと嘆くように詠むこともできるんやなあ、と思った。

by konohana-bunko | 2019-09-22 22:35 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり