酒井佑子著 『歌集 矩形の空』 砂子屋書房 (2006年刊行)
図書館に返す前に、取り急ぎ読書メモとして。
・一冊を通して作者のこころの強さが感じられた。
・自己愛や矜持を衒いなく詠んで、嫌味なく美しい歌に仕上がっているところに凄みを感じた。それができるのは、作者のよき資質(育ちのよさ)と、表現の力量あってのことだと思う。
・字余りの歌、また五七五七七に収まらない歌がある。声に出して読むと、ところどころ少しごつごつとした結び目がある感じ。定型のリズムより、作者独自のリズムが勝っているのだろう。
海紅豆の強剪定に思ひ及ぶ豚を煮て長く坐りゐるとき
(海紅豆 かいこうづ)
海紅豆(アメリカデイゴ)という樹の強い個性と「豚を煮る」という行為のぶつかり合いが強烈な印象を生む。「豚肉」ではなく「豚を」としたことで「生命を奪って食べている」感じが強く出ているように思う。
ある角に百円ショップはなばなと夕日さし入りて品みなかがやく
あたたかき海に生まれて台風は楽しからずやよろこびの渦
二首目、「よろこびの渦」がとても好きだ。破滅的なエネルギーをもたらすよろこびの渦。
八幡の森に風わたるぶつぶつに荒れた古い刺繍のやうなこころ
よろこびは単簡にしてひやひやと萩吹く風のもなかを歩む
ステンレスシンクの底にひとひらの水の舌夜を籠めて乾かず
ふるどしの落葉堆き森の下び歩みつつ楽しみつつぬばたまの鳥
少年に大中小ありて小なるの一人めざましきフィールディングを見す
白菜の立ち腐れつつみ冬づく三畝の土は見れど飽かぬかも
英字ビスケットそのIの字の砂糖衣うすももいろの今にかなしも
(砂糖衣 フロスティング)