『貧困旅行記』 つげ義春 晶文社(1991)
2007年 06月 19日
漫画ではなくエッセイなので、どうなのかな?と思いながら読み始めたが、結構面白い。漫画の地の文と文体が寸分違わない。ただ、著者の旅行記だから、漫画ほど虚構の世界ではない。
以下引用。
私は自分の好きなことは趣味にとどめているだけでは物足りず、何でも商売にしたくなる性分で、旅が好きだから「旅屋」を考えてみたり、さんぽが好きなので「さんぽ家」になろうと思ったりエスカレートするのだが、「旅屋」も「さんぽ家」も収入にはならない。(p147 丹沢の鉱泉)
そして1985年、妻子を伴った著者が奥多摩の山道を下るシーン。
半分ほど下った所で、道端の屋台でコーラやジュースを売っている若者がいた。こんな人の通らぬ淋しい山中で商売になるのだろうか。四、五メートル過ぎてからちょっと気の毒に思え、桶の水に冷してあるジュースを三本買った。おそらく資金もなく、茶店などの並ぶ場所に構えることもできないのだろう。それにしても、重いジュースをかついでここまで登ってくるのは大変なことだ。歩きながらそれを話題にした。「ああいう人こそ文無しのゼロから身をおこして、将来は偉くなるのだヨ」と、私は正助(引用者注:小学校四年生の息子)に聞かせた。自分のことを思えば、教訓じみた話など私はしたことはないのだた、つい口走ったりした。
「あの人ほんとうにお金ないの?」
「そうだよ、だからああして努力しているんだヨ」
「お金がなかったらオツリはどうするの?」
全然話が通じない。(p62 奥多摩貧困行)
写真、植物屋「風草木」さん。