口女 ―水をわたる
2007年 08月 21日
クレヨンが紙をはみ出る勢ひに海へ海へと伸びる大阪
四貫島島屋春日出つばくらめ大根一本百円の路地
有限会社山本莫大小玄関の金の成る木の鉢枯れやまず
自転車の沈む河口を渡る鳥口笛のやうに鳴く鳥もゐた
メリーゴーラウンド
ふりむけばとほざかるのにゆくてにはいつもわたしを待つ母のかほ
父は無言に立ち上がりたりわたくしの見えぬところで母を撲つため
さかのぼる曳船いくつ運河にも流れはありぬ見えがたきまで
安治川トンネル
歩行者の渡れぬ橋のまた一つ掛かりて向かう岸は遠のく
おん あい と口ひらくこそかなしけれ鯔の群れあの中のわたしだ
口女(くちめ)より生るるは口女吾子の唇(くち)にみづかね色のピアスは光る
「短歌研究」(短歌研究社)9月号 全30首より10首掲載
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写真、天保山大橋、大阪から神戸方面へ。