明け方
2008年 06月 10日
外に出ると、半袖の腕に触れる空気がつめたかった。時刻は五時前。雲は低いが、空は明るい。
声はもう聞こえなかった。折々よその猫を見かける、駐車場の車の下、植え込みのあたり、粗大ゴミ置場、と順々に覗きながら進む。昨夜の雨で、公園のブランコの下に水溜りができている。公園まで来て、猫の姿が見えないので、一旦家まで戻り、自転車を引き出す。自転車で用水路沿いに、家の裏手を見に行く。用水路に猫がはまっていないか見ながら漕ぐ。できればはまっていてほしくないと思う。ヘドロまみれになった猫はいやだ。野良猫に追われて、何度かドブにはまって帰って来たことがあった。風呂場で息をつめながら猫を洗った。あの頃は猫もわたしも若かった。
家の裏の畑はもともとは田んぼだった。それを畑にして、数年前まで貸農園をやっていたのだが、今は放置されてぼうぼうになっている。もうじき何か建つのかもしれない。青草の匂いがする。水路の底、浅い水から背中を半分出して、アメリカザリガニが歩いているのが見える。サギが見つけたらよろこんで食べるだろう。でも猫は見当たらない。
ツバメが地面すれすれを、繰り返し繰り返し飛びめぐっている。
コンクリート塀の向こうの、鉄道の敷地まで確かめて、どうも見つかりそうにないので折り返した。自転車を漕いで家のそばまで戻って来たら、路地のずーっと向こうの方に、黒い小さいいきものが歩いているのが見えた。ああ何だあんな所に。のんびり歩いて、無事だったのか、と思ったら、その黒いいきもののそばには人が立っていて、その人は紐を持っており、よく見ればそれは散歩中のダックスフンドであった。
家に帰って手を洗い、さてどうしたものかと思っていたら、にゃあん、と声がして、猫が網戸を開けてひょこひょこ帰って来た。怪我もけんかもしていなかったようだった。
猫缶を食べさせて、また布団に入った。眠れるかと思ったが、いつもの時間に目覚ましが鳴るまで寝ていた。