駒井哲郎のブックワーク
2008年 08月 12日
以下引用。
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からんどりえ 安藤次男
地上に届くまえに
予感の折返点があって
そこから
腐爛した死んだ時間たちが
はじまる
鼠がそこに甘皮を張ると
太陽はこの擬卵をあたためる
空の中へ逃げてゆく水と
その自ら零れ落ちる魚たち
はぼくの神経痛だ
通行止の策を破った魚たちは
収拾のつかない白骨となって
世界に散らばる
そのときひとは
漁
泊
滑
泪にちかい字を無数に思い出すが
けっして泪にならない
(安藤次男 『からんどりえ CALENDRIER』 書肆ユリイカ 1960 より)
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愛しあふ男女 小山正孝
煙は横に流れてゐる
屋根の上をゆつくりと這ふ
邪魔をするものはゐない
猫がゐるのだがねそべつてゐるだけだ
しづかな一日もやがて夕暮れになるのです
私は街の人ごみを歩くことができるのです
私を愛してくれる人を私はお前といふことにする
遠くの窓に西日が當つてゐるのが見える
人生では愛することだけがほんたうなのに
どこにゐるのだらうかお前といふ愛の相手は
煙はゆつくりと横に流れてゐる
私の心はお前の方に近よる
私の心はお前の心によびかける
煙もお前をさがしているのだらう
(小山正孝 『愛しあふ男女』 書肆ユリイカ 1957 より)