駒井哲郎のブックワーク

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駒井哲郎銅版画展には、装幀や挿画の作品(本)も展示されていた。とても気に入ったので、詩だけでも、とメモをとってきた。写し間違いがあるかもしれない。
以下引用。



からんどりえ  安藤次男

地上に届くまえに
予感の折返点があって
そこから
腐爛した死んだ時間たちが
はじまる
鼠がそこに甘皮を張ると
太陽はこの擬卵をあたためる
空の中へ逃げてゆく水と
その自ら零れ落ちる魚たち
はぼくの神経痛だ
通行止の策を破った魚たちは
収拾のつかない白骨となって
世界に散らばる
そのときひとは



泪にちかい字を無数に思い出すが
けっして泪にならない

(安藤次男 『からんどりえ CALENDRIER』 書肆ユリイカ 1960 より)



愛しあふ男女  小山正孝

煙は横に流れてゐる
屋根の上をゆつくりと這ふ
邪魔をするものはゐない
猫がゐるのだがねそべつてゐるだけだ

しづかな一日もやがて夕暮れになるのです
私は街の人ごみを歩くことができるのです
私を愛してくれる人を私はお前といふことにする
遠くの窓に西日が當つてゐるのが見える

人生では愛することだけがほんたうなのに
どこにゐるのだらうかお前といふ愛の相手は
煙はゆつくりと横に流れてゐる

私の心はお前の方に近よる
私の心はお前の心によびかける
煙もお前をさがしているのだらう

(小山正孝 『愛しあふ男女』 書肆ユリイカ 1957 より)
by konohana-bunko | 2008-08-12 12:30 | 日乗

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり