小野茂樹 小名木綱夫
2008年 10月 15日

小野茂樹 『羊雲離散』抄 より
朝空を揺らしてわれら別れたりどこでも新聞を売る朝なりき
てのひらを水面に押せばあふれつつこの直接もきみを得がたし
飴色の蟻の死とわが気付くまで昏れむとむしろ明るき日ざし
材木のあまき匂ひの漂ひを行き過ぐるとき風の壁あり
あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ
剪られたる花々の茎地にあれば霧は下れり一夜をこめて
垣間見しゆゑ忘れえぬ夕映えのしたたる朱は遠空のもの
母は死をわれは異なる死をおもひやさしき花の素描を仰ぐ
鉛筆の芯のとがりの輝けば夕づく日ざし机上にあそぶ
くさむらへ草の影射す日のひかりとほからず死はすべてとならむ
ゆきずりのわが魂にぬかるみをなづめるとほきくれなゐの傘
小名木綱夫 『太鼓』抄 より
おほかたの書物は焼けて寂しさの日にけにつのる麦は穂にでて
粥を待つ小さき口に歯の二枚あらはに吾児は掌をうちまてり
何か云ひ抛り出せし人形を乳のみ了へてまた抱きにゆく
夫われが仕事にて更ける夜の刻(とき)を帰り待つ妻はぼろくそにいふ
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引用終わり。今回この夭折歌人集の中で一番多くノートに写したのが小野茂樹だった。「あの夏の数かぎりなき―」や「くさむらへ草の影さす―」はあまりにも有名だけれど、その他にも余情たなびく歌がたくさんあってうれしかったのだった。並びの最後にある「ゆきずりのわが魂に―」、すごくいい。でもこの歌、いざ読み解くとなると難しそう。
対して、小名木綱夫(1991-1948)の歌は伝えたいことそのままの歌でわかりやすい。思うに任せない日常を詠んだ作品が多かったが、その中にぽつぽつと出没する妻子の姿がいきいきとしていた。
次はいよいよ最終回。

