最近読んでいる本 『歌集 矩形の空』 酒井佑子

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酒井佑子著 『歌集 矩形の空』 砂子屋書房 (2006年刊行)

図書館に返す前に、取り急ぎ読書メモとして。

・一冊を通して作者のこころの強さが感じられた。
・自己愛や矜持を衒いなく詠んで、嫌味なく美しい歌に仕上がっているところに凄みを感じた。それができるのは、作者のよき資質(育ちのよさ)と、表現の力量あってのことだと思う。
・字余りの歌、また五七五七七に収まらない歌がある。声に出して読むと、ところどころ少しごつごつとした結び目がある感じ。定型のリズムより、作者独自のリズムが勝っているのだろう。

海紅豆の強剪定に思ひ及ぶ豚を煮て長く坐りゐるとき
   (海紅豆 かいこうづ)

海紅豆(アメリカデイゴ)という樹の強い個性と「豚を煮る」という行為のぶつかり合いが強烈な印象を生む。「豚肉」ではなく「豚を」としたことで「生命を奪って食べている」感じが強く出ているように思う。

ある角に百円ショップはなばなと夕日さし入りて品みなかがやく

あたたかき海に生まれて台風は楽しからずやよろこびの渦

二首目、「よろこびの渦」がとても好きだ。破滅的なエネルギーをもたらすよろこびの渦。

八幡の森に風わたるぶつぶつに荒れた古い刺繍のやうなこころ

よろこびは単簡にしてひやひやと萩吹く風のもなかを歩む

ステンレスシンクの底にひとひらの水の舌夜を籠めて乾かず

ふるどしの落葉堆き森の下び歩みつつ楽しみつつぬばたまの鳥

少年に大中小ありて小なるの一人めざましきフィールディングを見す

白菜の立ち腐れつつみ冬づく三畝の土は見れど飽かぬかも

英字ビスケットそのIの字の砂糖衣うすももいろの今にかなしも
   (砂糖衣 フロスティング)


# by konohana-bunko | 2025-01-03 23:07 | 読書雑感

最近読んでいる本 歌集『桃』 ヨシダジャック

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ヨシダジャック著 歌集『桃』Yoshida Marketing Office (2024年刊)

みずみずしい黄桃の表紙。ちょうどいい軽さ、明るさの感じられる造り。白すぎず、ほんの少しざらついたページに触れるとき、ペーパーバックっていいなあと思う。この厚みと手触りはどこかなつかしい。そう、昔むかし読んだ、谷川俊太郎訳のスヌーピーの漫画本に似ている。

短歌一首、散文、挿画が見開き二頁にきれいに収まっている。個人的にいいな、好きだなと思った作品を、二首引用。

・空を見れば大小の熊眠りおり ひかりはきっと答えではない

(38ページ「ひかり」より)

星座のおおぐま座、こぐま座のことだろうか。下句の静けさが好きだ。星の光に何かを求めたり感じたりするというありがちな発想が、きれいに反転されているところが気持ちいい。

・願掛けの天神、天満、難波橋、橋姫ひしめきあって笑う

(56ページ「橋姫」より)

ひとつの橋に橋姫がひとりいるのだとしたら、大阪市内には何人の橋姫がいるのだろう。橋姫どうしで集まって遊びに行ったりするのだろうか。歌に触発されてそんなことを想像するのが楽しい。

ジャックさんの短歌は、きちんと勘所を押さえていながら軽やかで自由だ。『桃』を読んでいると、自分の短歌のとらえ方、表現の窮屈さ、重さが逆光を浴びたように浮かび上がってくる。

# by konohana-bunko | 2025-01-01 23:44 | 読書雑感

最近読んでいる本 黒沢組歌集 「街道」 第八号

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黒沢組歌集 「街道」 第八号 風卵舎 2024年3月20日発行

今年の春に読んで、机の上に置いたままになっていた。
本を読んでも、手を動かさないと頭が働かない。読まなかったことと同じになってしまう。
すっかり今頃だが、好きだなと思った歌をいくつか引用させていただく。

・少女らの赤、青、黄のヘルメット春風が行く自転車が行く
  横田初子 「空っていいよ」より

・鶏頭の花は重たいかぶりもの被るおんなの頭のようで
  青沼ひろ子 「太陽の柚子」

・六畳の部屋に座って風の声きく夕刻はペソアの詩集
  浅川洋 「東風」 

・深海の魚の形のしろいくも風に喰われた頭と骨だ
  榎並宏子 「喰われる」

・波を越え渡るあとりの一群のいちはいちはの体温みとむ
  黒沢忍 「ああ海ね」

・手術後の夫の手握る名を呼べば握り返す手こんなに厚い
  五味雅子 「ペレケの鮭」

・透きとおる肋骨樹肌に護られて良き内臓を弥勒は持てり
  坂本まゆみ 「月を持つ」

# by konohana-bunko | 2024-08-20 14:08 | 読書雑感

最近読んでいる本 佐藤弓生歌集『モーヴ色のあめふる』

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佐藤弓生歌集『モーヴ色のあめふる』(書肆侃侃房/2015年)より、好きだなと思った歌を以下引用。

・手で包むこどものあたまあたたかい種がいっぱい詰まってそうな

 ――「あたたかい種」って何て素敵な表現なんだろう。一度読んでしまったらこのイメージを忘れることができない。

・天は傘のやさしさにして傘の内いずこもモーヴ色のあめふる

・ふくらはぎに陽射しひくくふれてくるプラットホームもう脚ばかり

 ――駅という、ひたすら移動する場所の特徴を言い得て妙。

・まんまるな月ほどいては編みなおす手のやさしくてたれか死ぬ秋

・月寝(い)ねしのちの沙漠をなおゆける骨ゆらゆらと王子王女は

・座席からのぞけばのぞきかえされる夏の月夜のみじかい旅に

 ――鉄道の旅と読んだ。さしのぞく月の眼差しがやさしい。短夜、月光をかえす二条のレールの上を揺られてゆく旅。

# by konohana-bunko | 2024-07-16 23:02 | 読書雑感

最近読んでいる本 飯田有子歌集 『林檎貫通式』

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現代短歌クラシックス01 『歌集 林檎貫通式』 飯田有子著 (書肆侃侃房/2020年)

『林檎貫通式』について書いた拙文が、うた新聞令和6年6月号「近年刊行のオススメの歌集」に掲載されています。そちらで紹介しきれなかった歌を以下引用。

・北半球じゅうの猫の目いっせいに細められたら春のはじまり

・ハンドルに白い如雨露をひっかけて夏生まれの人が自転車で行く

・帽子屋のシャッターゆっくり巻きあがり下からあらわれる麦わら帽たち

・ときどきどこかへとてつもなく帰りたい眼科検査の気球への道

・セコムしていないおうちの軒先の朝顔夕顔ふうせんかずら

・深々と夜更けの米びつうつそみの肘までうずめて何かにふれる


# by konohana-bunko | 2024-07-03 22:34 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり