最近読んでいる本 『歌人番外列伝 異色歌人逍遥』 塩川治子

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『歌人番外列伝 異色歌人逍遥』 塩川治子 短歌研究社(2020年)

あとがきに、〈専門歌人でない人で、他分野で特に名が知られている人々を取り上げている〉〈番外の番外として死刑囚なども入っている〉〈取り上げる人の条件のひとつに歌集を出していること〉と書かれている。
短歌(和歌)のアンソロジーとして、楽しみながら読んだ。
付箋をつけた歌を引用してみる。

・我が夢の一つ一つを負はすべくあまたの生命(いのち)欲しと思へり  鶴見和子

・菊の影大きく映る日の縁に猫がゆめみる人になりしゆめ  片山廣子

・人に打たれひとを打ちえぬ性(さが)もちて父がうからは滅びむとする  片山廣子

・川にゆく路を電車にてよぎるとき夕光(ゆふかげ)敷ける土うつくしき  小林昇

・坂を下る道生のあとをころころと山の小石がついて下るも  石牟礼道子

・歌を詠む妻をめとれる夫の瞳に途惑ひ見ゆれわれやめがたし  石牟礼道子 

・「人を人とも思はぬやうな、かたむきの性を、そなたは持てり」とや母。  大熊信行

・かなしきは、発作のごとく、にはかなる願なりけり、本が買ひたし。  大熊信行

・せとものゝひゞわれのごとくほそえだは淋しく白きそらをわかちぬ  宮沢賢治

・なまこ山海ぼうず山のうしろにて薄明穹のくらき水色  宮沢賢治

・うつせみの世は夢なれや桜花咲きては散りぬあはれいつまで  源実朝

・六つのみちをちこち迷ふともがらはわが父ぞかし母ぞかし  道元

・世の中にまことの人やなかるらん限りも見えぬ大空の色  道元

# by konohana-bunko | 2023-11-10 22:00 | 読書雑感

最近読んでいる本 岡部桂一郎の歌集二冊

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歌集『緑の墓』岡部桂一郎 (昭和31年/1956)

数條のレール光れる暁の薄明のなか紙ひとつとぶ
黄昏に入らんとぞしてほてりたる歩道をぬらす数分の雨
遠天に夕やけ雲の消えしとき骸炭の山を転落する骸炭
空気銃持てる少年があらわれて疲れて沈む夕日を狙う
ここにある阿呆の一生(ひとよ)埋まりて夜毎の月と朝朝の霜
音もなくうねれる夜の水の上に壜ただよいて星々は目守(まも)る
荷車に轢(ひ)かれて砂利のつぶるる音めざめて間なき世界より来る
白磁器のふちが机上にかがやける輪とのみなりし夜を放心す
日の沈み終わりし空は匂いつつガラスの鉢に透く赤き魚
砂の上に濡れしひとでが乾きゆく佛陀もいまだ生れざりし世よ
おとずれの如くわが身をさしにくる夜ごとの縞蚊、天(あめ)の星々
瞬間にあいし二つの手のひらより命死にたる蚊が落ちてくる
鋪装路を数かぎりなく枯葉越ゆ赤き葉まじりおれども枯葉
昏れがたの歩道の上に音もなく白き紙きれ舞いてしずまる
(一部、旧字を新字に変更しています)

歌集『坂』 岡部桂一郎 青磁社 (2014)

人の世のわれを選びてかたわらのざくろはあかき口をあけたり
この空の深い青さはなんだろうもっと嘆けということなのか
いきいきと大根畑さわだちて風を連れたる犬が過ぎたり
父母よわが死ぬときに現われて立ち給うなよ覗き込むなよ
かすかなることと思うな月のぼる東の空のほほえむものを
大根の畑に来たり腕組みし無用の人は大根を見る
墓地工事人の働くかたわらに毛布かぶりて待つ石一基
影が前に人がうしろにいるような歌つくりたしわが出来ざらん
かすかなる風は路上の紙きれをなぐさみながら連れてゆきたり
大いなる鋼の板の宙吊りに上りてたわむとき鰯雲
ナイル河岸(きし)に摘みしというミント繁れる鉢のそばに寝ころぶ
原稿の枡目の中にかなしめる「それまで」の文字「それから」にする

第一歌集の『緑の墓』の中でも、遺歌集の『坂』の中でも、路上を舞う紙片の歌があることに気付いてうれしくなった。心に掛かるモチーフがあれば、何年経っても、何度詠んでもいいのだと思えて。同じ泉から、幾度でも汲めばいいのだ。その都度、あたらしい水を飲めるのだ。

「影が前に人がうしろにいるような歌」とはどのような歌なのだろう。わかりそうでわからないこの歌にいたく心を惹かれる。

# by konohana-bunko | 2023-09-10 23:05 | 読書雑感

最近読んでいる本 歌集『イーハトーブの数式』 大西久美子

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大西久美子 歌集『イーハトーブの数式』 書肆侃侃房 2015年

以下引用。

・にんげんの瞼が剥がれてゆくやうな桜吹雪のまんなかにゐる

・ジャポニカのマス目ノートを埋めつくす「あ」は朝の「あ」だ。「あ」「あ」、花が咲く

・ちゆうしんがひえきつてゐるかたゆでのたまごをよるのキッチンに剝く

# by konohana-bunko | 2023-07-18 14:13 | 読書雑感

最近読んでいる本 歌集『太占』 金子国俊

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金子国俊 歌集 『太占』 不識書院 1981年  うた叢書第一篇

自分にとって大切な本。好きな歌を引こうにも選びすぎてしまうので、今回は三首だけ引用する。

・砂を空けし後水平にもどりゆく空しき底に目は留まりぬ

・スヰッチの紐のありかをさがすとてしばしただよふごとくありたり

・夜のひかり吸ひて厨に生き生きとせる椅子ひとつ呟くごとし

あとがきより

〈歌を作って来て私の得たものは、現実を生きる姿勢の変化である。それは、その前から比べれば、やわらかく、そして強くなっているように思う。私にとって歌は、自分の生を確かなものにする為の、概念を払いのけた借り物ではない目や心で、現実を発見しようとするたたかいであるとも思うのである。〉

# by konohana-bunko | 2023-07-17 14:33 | 読書雑感

最近読んでいる本 杉山隆遺稿集『人間は秋に生まれた』

最近読んでいる本 杉山隆遺稿集『人間は秋に生まれた』_c0073633_23003169.jpg

杉山隆 遺稿集 『人間は秋に生まれた』 株式会社東京美術

日本の古本屋サイト経由で、宇都宮市の古書店から購入。奥付のところに、「杉山浩氏より受贈」と、日付が書いてあり、その日付が発行日の数日後となっている。浩氏は著者の父上だろうか。
心に響いた歌を七首引用。

・「屋根の家のサワン」を聞きし古ラジオ静かな秋の文化の日なり

・初夏の林に深くいりしとき扉のごとく光おり来つ

・塵あげて坂上りくる風の中ときをり光り紙切れの舞ふ

・夜に開くノオトに黒き影を曳き吾が部屋を飛ぶひとつ蛾のあり

・教室に乱雑にある黒き椅子が夕日射すとき骨のごとく見ゆ

・黒揚羽光りつつ飛ぶ夕庭に羊歯の葉の影乱れあひたり

・歌会より帰りてゆくに夜の河に激しく水の責めあふ音す

カバーにも、表紙の型押しにも、羊歯がデザインされている。最初に手に取ったときはあまり気に留めなかったその羊歯のモチーフが、読み終わって本を閉じるとき、胸をじわじわとしめつけてきた。

# by konohana-bunko | 2023-05-06 23:01 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり